連載

□砂上の唄5
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朔夜の見解では、沙稀の普段の性格に問題があるのではないかと思う。弟の琉稀は見た感じやりたい放題行動しているように見えるが、沙稀は常に自分を抑えよう抑えようとしていることが目に見えて分かるのだ。
きっと溜め込んだ何かか爆発するかのように、そうなってしまうのではないだろうか。
一緒に任務をこなす中で何度かそれに遭遇したが、朔夜はそうなった沙稀を容赦なく殴りつけて無理やり正気に戻す事にしていた。本人もそうしてくれと言っていたことだった。
しかしそれがある日を境に全く起こらなくなったのだ。
そう“あの任務”の後だ。
カイン=ハーヴァイルが沙稀の傍にいることによって、沙稀は精神的に安定していたのかもしれない。
カインと共に行動するようになり、沙稀が我を無くすような事は少なくなった。
たが、一つの事件が起こってしまう。
二人で行くのにしては何て事のない任務だった。
朔夜からしてみれば一人でも十分そうに思える程。
その任務中に一体何があったのか。
沙稀が朔夜に語る事はなかったが、粗方の予想はつく。
あのカインが、沙稀の傍にいないのだから―…。





「沙稀ちゃん、どうしちゃったの。昨日まではフツーに仕事してたじゃん」
本日幾度目かの朔夜の質問にいい加減嫌気がさしてくる。
沙稀の眉間の皺は海溝のように深くなっていた。
カインが居なくなってから三年、沙稀の様子は自分とペアだったときと何らかわらなかったが、ここ1ヶ月は様子が違った。
まるで、カインが居た頃のような…。
「迷惑を掛けたと、言った筈だが…?」
沙稀は朔夜に向き直って言う。
これ以上の追求はたまったものではない。
「それで全部済ませたつもり…?謝ったからもういいだろうって?」
沙稀の言葉に対して、朔夜が返したのは容赦のない一言だった。

謝っただけでは済まさないと言うのだろうか。
だが、朔夜があの程度の怪我ことでここまで追求してくるとは思えなかった。確かに沙稀の不注意だったが、朔夜が怪我をしたわけではないというのに。
沙稀は大きなため息をついた。
「…お前には関係ないっ」
「確かに関係ないかもね。プライベートの話だし?でもそれで仕事に支障が出ないって言うなら話は別だぜ。けど怪我したじゃん」
「…大袈裟だ」
「大袈裟かもしれないけどな…っ俺は人守ってる余裕なんかないんだよ?自分でいっぱいいっぱいなんだよ?お前にしっかりしともらわないと…」
朔夜は真剣な表情でそんな事を言うが、沙稀はその台詞に違和感を感じずなはいられなかった。
「お前に助けて貰おうとは思ってない。俺が死にかけた時はほっといてくれてかまわないから…」
「ふざけんじゃねぇよッ!!」

言いかけた沙稀の肩を掴み壁に押しつけると、朔夜は怒鳴る。
「…お前こそ、頭がおかしくなったのか?」
沙稀は表情を変えずに朔夜を見遣った。
「急に人の心配なんかしやがって…」
「……」
朔夜は暫くじっと沙稀を睨み付けていたが、乱暴に手を離しやれやれとため息をつく。
そして、振り返った朔夜には悪童のような笑顔があった。
「あーっ!!もう!!俺の傑作の演技が台無しじゃないか!!」
言った朔夜は狐に摘まれたような表情をしている沙稀の両の頬に手を当てると、灰色の瞳でじっと沙稀を見つめる。
「お前が何を考えてるのかなんて、わかりっこないよ。俺はカインとは違う」
言ってくれなければ、手助けも出来ないじゃないか。という意味を込めて、朔夜はそう言った。
沙稀が視線を外したのを確認してから朔夜も手を離す。
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