☆イベントSS☆
□其々の道〜沙稀×カイン〜
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別行動をとり始めてから暫くしたころ、カインは背後に感じた違和感に、思わず足を滑らせてしまった。
階段の多いこの工場では足元が悪い。
しかも、箱や玩具がところ構わず散乱している。
「いてて…っ」
不注意とはいえ、こんなところで脚を滑らせるなど日ごろの鍛錬が足りないんじゃないかと少し落胆してしまう。
そして、立ち上がろうとした瞬間だった。
先程感じた気配が、直ぐ側にある。
そう気付くと同時に、黒くうねるものが右足に巻きついた。
「!?」
態勢を崩されるが、瞬時に受け身を取って何とかやり過ごす。
けれども、次から次へと延びてくるものが、カインの体を拘束した。
「なっ…!?」
こんな生き物が、この場所に居ただろうか。
沙稀から聞いていたのは、ストームナイトとハティベベくらいだ。
その2体のことならGに保管してある資料でみた事がある。
しかし、自分の体に巻きつくヒルの様な生き物など、見た事が無い。
これは一体、なんだ。
突然の出来事に頭が混乱するが、ついで聞こえてきた声にカインははっと息を飲む。
「久しぶりですねぇ…カイン」
そして、乱立する壁の奥から姿を現したのは…
「カ、カグヤ…っ」
その名前を口に出した瞬間、吐き気が込み上げてくる。
この男には自分の人生を狂わされてしまったのだ。
けれども、カグヤは確かに、カインが自らの手で止めをを指した筈だった。
怒りにまかせて、絶望に任せて、ありったけの憎悪を込めて何度も何度もナイフを突き立てた感触が今でも思い出せる。
何故、コイツが此処に居るんだ!?
「…そんナに怖い顔をしなイで下さいョ…折角美シいアナタの顔が台無しデスょ」
そう言いながらこちらに歩いてくるカグヤの半身が、壁から出て露わになる。
「!!?」
カインはまたもや言葉を失った。
カグヤの半身からは、今自分に巻きついているものと同じものが無数に伸び、のたくっていたのだ。
「…貴方は…一体…っ」
「驚きマしたカ? 素晴らシいでショう!? わたシは、新シい体を手に入レたのでス!!」
カグヤは残されていた片方の腕を広げ、カインに向かってそう言う。
その見開いた目は血走り、もう片方の眼からは赤黒い舌の様なものが飛び出していた。
異形…否それ以上のものに変貌したカグヤを、カインはただ見つめている事しかできない。
「リヒタルゼンの生態研究はまだ密かに続いテいたノでスよ? 人の体力や身体能力ニは限界ガありまシた…。けれども、こうシてモンスターと融合する事によっテ、人は更に進化すルのでス!」
カグヤの言っている意味がよくわからない。
人とモンスターを融合させる、とは一体どういうことだろうか。
未だに何故カグヤが此処に居るのか理解できないカインは、混乱する頭で、兎に角この体に巻きつくものを引き剥がそうともがいた。
「ああ、カイン…貴方が私と融合したノなら…そレはなんテ素晴らしいことでショうか…」
カグヤは焦点の合わない眼で宙を見つめながらそう言った。
そして、カグヤが片方しかない眼の焦点をカインに戻した瞬間、その体から生えた無数の触手が一斉に伸び始める。
「っ!」
伸びた触手が耳郭を舐めるように這い、衣服の隙間から滑り込んできた。
「う、ぁっ…っ離せッ…!」
うねる触手を掴み、引き剥がそうともがく手足にも触手が絡みつき、次第に身動きが取れなくなる。
何処にそんな力があるのだろうか。
一見簡単に千切れてしまいそうな触手は、あっという間にカインの体を拘束してしまった。
滑り気を帯びた触手が、耳の穴に入り込む。
「ひっ…ッんんぐっ」
声を上げるのと同時に、唇を撫でていた触手が口内に侵入してきた。
噛みちぎろうと歯を立てたが、喉の奥にまで到達した触手にえづき、うまくいかない。
口内の触手が、喉奥に何か甘い液体を吐き出した。
「かっ…ぁっ」
吐き出す暇もなく、液体は咽頭を通過してしまう。
触手はおかしなピンク色の液体を滴らせたまま、口の中から引き抜かれた。
「見せてダさい、アナタが乱レるところを…」
「っ、何言って…うぁっ!?」
言い返そうとした言葉は、下腹部を弄っていた触手によって遮られてしまう。
触手はその滑りを利用し、固く閉ざされていたカインの後孔をこじ開けたのだ。
「サァ…体の中から、アナタを侵食シてあげマしょウ!」
「う、ぁぁあああああ―――っ!」
カインは、恐怖とおぞましさに思わず叫び声を上げる。
抵抗しようにも思った様な力が入らず、手足は拘束されたまま動かない。
触手はくねくねと動き回り、カインの体内の奥へ奥へと入り込んで行く。
「ァあ! こレがアナタの体のナかなのでスね!」
恍惚の表情を浮かべ、カグヤが歓喜の声を上げた。
吐き気がする。
目の前がチカチカして、気がおかしくなりそうだった。
それなのに、どうしてなのか。
ぞくぞくと頭が狂いそうなほど恐ろしい快感が背筋を駆け上がる。
心と体がバラバラになってしまいそうだった。
「素晴らシイですヨ、カイン。今のアナタはとテも美しイ…きっとアナタが想ウあの人もそう感じテクレる筈デす!」
「!!」
カグヤの言葉を聞いたカインの脳裏に、沙稀の姿が蘇った。
その瞬間、体がビクリと跳ねる。
沙稀に抱かれている訳でもないのに、何故その事を思い出すのか自分でも信じられなかった。
「やめろ…っ!」
沙稀の事を、思い出させないでくれ。
こんなおぞましい快感で沙稀を汚したくない。
カインは必死に頭の中から沙稀を消そうと頭を振った。
しかし―…
《カイン、そっちは大丈夫か?》
「!?」
突然脳内に響いた沙稀の声に、体がおかしな位反応してしまう。
沙稀からの、Wisだった。
《…心配ありませんよ? そっちは、どうですか?》
平静を装い返事を返すものの、湧き上がる快感は徐々に許容量に達しようとしていた。
《…あぁ、問題ない。ある程度集まった様なら帰還しようと思うんだが…》
「……っ」
沙稀の声と、体内を穿つモノが交錯する。
カインは声もなく、精を放った。
目尻から、一粒の雫が滴る。
自分は、なんて浅ましい生き物なんだ、と。
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