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□heat【10000HIT】
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「どうしたの琉稀…?」
そう呟いて、譜迩は琉稀の頬を両手で包むように撫でる。そしてその体温に思わず眉間に皺を寄せた。
「ちょっと…琉稀、熱あるんじゃ…」
「…そういや、なんかダルいかもな…」
「そういやって…、そう言う問題じゃないだろッ!!」
返された言葉に思わず怒鳴る。だが、
「そんな怒るなよ…」
と全く応えていない笑顔でそんな事を言われてしまえば、それ以上は文句の言いようがなかった。
「兎に角どいてっ」
「嫌だ」
嫌だ、とはなんだ。
譜迩の頭の両脇に付いていた手を折り曲げて、琉稀はもう一度譜迩にのしかかる。
「る、るき…っ」
「起きるのダルい。何もしたくない…」
そんな駄々っ子みたいなことを言われても困ってしまうのだが、これを退かすのは容易な事じゃない。
「いい加減にしてよっ」
譜迩は琉稀の髪を引っ張りながらそう怒鳴る。
普通の状態なら、こんな風にされても多少は黙って大人しくしておこうと思うのだが、如何せん琉稀は病人だ。看病してやらなければならないと思ってしまう。
「風邪移るからっ」
胸中の思いは伏せておき、それが一番の問題だと言わんばかりに声を張り上げれば、琉稀は渋々譜迩の上からベッドへと体重を移動させた。
「全くっ…病人なんだから大人しくしてよ…」
漸く琉稀の腕から逃げ出した譜迩はその手が届かない位置で琉稀を見下ろす。
一人分の体温が無くなったそこに残る温もりを無くすまいとしてか、琉稀は毛布を被りながら譜迩を恨めしげに睨みつけた。
「へっくしッ!!」
そしてくしゃみを一つ。
流石にそのままの格好ではよくなさそうだ。
「今服持ってくるから…」
言いながら部屋にあるタンスへと向かうが…
「ひっ!!」
ぐしゃり、と冷たく水分を含んだ何かを踏みつけて思わず息を飲む。
一体なんだ。
恐る恐る足元を見ると、そこにはびしょ濡れになった衣服が脱ぎ捨てられていた。
「ちょ…っ、と…琉稀っ!!」
「んー…なんらよー」
咎めるように名を呼べば、毛布の中に潜った上に鼻声というかなり聞きづらい生返事が聞こえてくる。
「昨日そのまま寝たの?」
「たぶん…」
「たぶん!?何言ってんのバッカじゃない!?」
馬鹿は風邪引かない、何て言葉を作った人間は何を考えているのか。
この馬鹿は全くもって馬鹿な癖に見事に風邪を引いているじゃないか。
「あぁあ〜…そういや、サファイア取りにいかねぇと…」
「何寝ぼけた事言ってんの!!今日は寝てなさいっ!!」
譜迩は盛大に溜め息をついて、箪笥から取り出した服をベッドに向かって放り投げた。
折角遊びに来たって言うのに、何だってサファイアを欲しがるのか。
「刹那に命令された〜…明後日までにサファイア100個〜…」
「え…?俺聞いてないよ…?」
「てか、何でお前いるの…?」
「……は?」
一辺絞め殺してやろうか。
「来るって言ってたよね…?」
「…忘れた」
「………。もう知らない」
いつも、大事な事を忘れてしまっているんだろうか、この男は。何だか自分が琉稀にとってどうでもいい存在なのかと思えてくる。
「うそ…思い出した。ごめん。サファイア取りに行こう…」
「今思い出したのかよ!!忘れてたんだろ!!」
「そうかも…」
「そうかもじゃない!!もう寝てろっ!!」
ダメだ話にならない。
普段から会話が噛み合わない事も多々ある琉稀だが、今日は余程ひどい。
「サファイアならリク兄から掻払ってくるから…」
それでも安心させようとしてこんな事を言う自分に感動しそうだ。
「…さんきゅ〜…」
琉稀は布団から出した手をひらひらさせながらそう返すが、相当参っている様子だった。
本当にしょうがない奴だ。
だが、そんな琉稀を放っておけない自分も相当なものだと思うのは譜迩だけだろうか。
「薬どこにあるの?」
琉稀の家には何度も来ているが、薬の置いてある場所を知らない譜迩は濡れた黒装束を拾い上げながら訊く。
「ない…」
「……」
訊いたのが間違えだったか。
「じゃあカイトに貰ってくるから…」
「いい。此処に…居れば?」
何でそこで疑問系なんだ。
傍にいろ、と言うことなのだろうが…なんて天の邪鬼なんだろうか。
しかしそんな所も憎めないのは、惚れた弱みかもしれない。
だが、この馬鹿の所為で今日の今までの全ての事が台無しになったことは言わずとも知れている。
このツケはどうやって返して貰おうか。
「プリースト桜譜迩の看病は高くつきますよ〜」
皮肉ってそう言ってやれば、
「金をとるプリーストなんてろくでもねー…」
と吐き捨てられた。