連載

□記憶の傷跡@
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無事でよかったと安堵を込めてそういい、二人は父親であるハイプリーストの方へ視線を遣った。
年若く見える淡い金髪のハイプリーストはチェインを構えてブラッディマーダー(先ほどの包丁を振り下ろしたモンスター)の前へと立ちはだかった。
左手に握ったチェインを振り上げて言う。
「うちの可愛い息子にッ!!」
チェインを振り下ろし、ブラッディマーダーを攻撃しつつ怒鳴る。
「傷でもついたらどうしてくれるんですかっ!!?」
ブラッディマーダーはハイプリーストの懇親の力を込めた一撃に吹っ飛ばされ、向いの壁に激突して動かなくなった。
「沙稀、琉稀を頼みましたよ」
言って、金髪のハイプリーストは速度増加の呪文とブレッシング、キリエ・エレイソンを順に掛けると、そっと二人の肩に手を置く。
「アレを片付けたら一緒に帰りましょうね」
背後の大きな塊を親指で示し、生粋の殴りプリーストである父親はそう言って笑った。
「何やってんのよッ!?私を殺す気なの架月!?」
そこへ大きな鉄の鎧を纏った血まみれの騎士の周りを翻弄するように駆けるペコペコに乗った長い銀髪のパラディンが、プリーストに向かって怒鳴る。
「そんなことないですよ。『優祈!!愛してる!!』」
答えて駆け寄ったプリーストは既婚者のみに使えるスキルによって彼女のSPを回復した。
「めっちゃ恥ずかしいのよねソレッ!!」
「つべこべ言ってる暇ありませんよ?マグニフィカート!!」
聞くだけなら他愛もない夫婦の会話であるが、今は全く緊迫した雰囲気でそこに居るのだ。
「ッチ!!グランドクロスッ!!」
「ヒールッ!!」
二人の連携はそれはそれは息ぴったりで、沙稀と琉稀はいつの間にか強張った表情を消して目を輝かせていた。
「もう一息でしょうかね」
「気を抜かないでよ架月・・・っきゃぁあ!!」
「優祈!?」
余裕そうに見えた二人の会話に、突如として悲鳴が加わる。
それは、血まみれの騎士がその場に倒れるのと同時に起こった。
水色の、羽の生えた大きなポリン。
それが視界に入ってすぐ、周りにおびただしい数のモンスターが現れる。
「なッ!?アークエンジェル!?」
「っ優祈!!危ない!!」
驚愕の声を上げた妻、優祈に襲い掛かるモンスターをチェインで払いのけながら、架月は怒鳴った。
「お母さん!!」
琉稀は叫んで立ち上がる。いつの間にか二人の周りも無数のモンスターに囲まれていた。
「今行くから待ってなさい!!」
優祈は悲鳴のような声を上げる。しかし、聖属性の攻撃を最大の攻撃とする『グランドクロス』では、アークエンジェルにダメージを与えるどころか、傷一つつけることは叶わないだろう。
かといって殴りプリーストの架月がそれを倒せるという保障なども何処にもない。
「どきなさいよッ!!」
優祈はせめて子供だけでも守ろうと、周りを囲む取り巻きのモンスターたちをなぎ払って二人の下へと駆け寄った。
「いいこと!?この子たちには指一本触れさせないわ!!」
叫びながら、優祈手にした剣を振り回す。
「っ優祈!!」
「!!」
そこへ、アークエンジェルが無邪気な様子で近づいて・・・。
伸ばした架月の指先が、あと1センチというところで彼女には届かず。詠唱はあまりの一瞬の出来事だった為にとても間に合わなかった。
気付いた時には銀髪のパラディンは地面に倒れて、その横には彼女が可愛がっていた愛用のペコペコが苦しそうな声を出して・・・。
「ッ!!」
リザレクションを唱えれば、彼女を救うことが出来たかもしれない。しかしそこに時間を割いていては、彼女が守ろうとした二人に危害が及ぶとこなど容易に予測できる。ここで彼女を救うことを、彼女は願っただろうか?
架月は言い様のない憤りを感じつつも呪文で速度を増した脚で最愛の息子達の下へ走った。
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