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□この日だけは
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この日だけは、何かしてやりたいと思ってたんだ。
街中はもう綺麗にイルミネーションを施されて、1ヶ月以上も前からこの日を待ちわびて、きっとそこらで仲良さそうに歩いてるカップルだってそうだろ?
俺だってそうだよ。
俺はアイツの誕生日がいつだとか、全くしらねぇし。
それについて、アイツが何も言わなかったとかいい訳はしないつもりだけど。
だからさ、だから…
後ちょっとだけ待ってくんねぇかなぁ?
たぶん、日ごろの行いが悪いからなんじゃネェかな、こうなってんのは。
でもこれが終わったら、少しは真面目にやるから…。
カミサマ、アンタを信じないなんて云っといて、こんな時だけこんな事云うのも変だと思うけど、頼むから、少しだけ時間を止めてくれ。
後一分一秒でもいいから…。
[琉稀、今すぐ来い]
兄貴からそんなwisが届いたのは夕方3時頃だった。
[ハァ? なんの用だよ?]
兄貴がそんな風に俺を呼ぶことなんてそう滅多にあることじゃない。
ちょっとばかし嫌な予感がした。
だからつっけんどんな態度を取ってしまった訳だが、それに対して兄貴は
[頼む]
と返してきた。
一体何があったって言うんだ。
wisはそれきりプツリと切れてしまった。
大方の予想はつく。たぶん取り込み中なんだろうな。
あぁ、別にやましい意味じゃなくて、仕事で忙しいんだろうって意味で…まぁそんなの分かるよな。
俺は思わず頭を掻いた。
時間は、あるっちゃある。
そもそも予定では夜中に行こうと思っていたし、今なら大丈夫だ。
でも兄貴のあの様子じゃ、相当てこずっているんだろうなぁ…。
俺はもう一度部屋の壁にかかっている時計へ眼をやった。
3時10分。
「あーもう、仕方ねぇなぁ…」
実は、このwisをもらって嬉しかったりもしたんだ。
兄貴は普段喋らないだけじゃなくて人を当てにしたりもしないから。
俺を頼ってくれた(そんな大袈裟なものじゃないかもしれないけど)と思えば多少はいい気分にもなるさ。
「んで? 兄貴今何処にいるんだ?」
来い、とは云われたが。
[おーぃ、兄貴今何処なワケ?]
仕方なくもう一度兄貴にwisを送る。
忙しかったら返って来ないかもしれないけど、でもこの返事をもらわない限り俺にはどうすることも出来ない。
[アインブロック]
帰って来た返事に俺は溜息をつく。
あんまりスキじゃないんだよな、あの街。
シュバルツルド共和国はルーンミッドガッツよりも先進的なイメージがあるけど、リヒタルゼンなんかは貧富の差が激しすぎる。
アインブロックは工業が盛んな街だけど…どうもあの粉塵にまみれた街中はいるだけで眼がシパシパするし咳はでるし、堪ったもんじゃネェ。
[りょうか〜い]
俺は生返事を返して部屋を出た。
行くのも一苦労なんだよな。どっかポタ屋でも捜すか。
飛行船なんて便利なものが出来てから、シュバルツルド方面へ足を運ぶのも楽にはなったが、俺はどうもあの乗り物が好きになれないんだよ。
なんかこう…気分が悪くなるんでね…。
そんなこんなでカプラ嬢(相変わらず美人だ)に空間移動をお願いして、俺はプロンテラへと降り立った。