☆イベントSS☆

□バレンタイン2013B
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キッチンにつくと、リクと譜迩は早速チョコレート作りを開始する。
チョコルチの琉稀はというと、キッチンのテーブルの上にちょこんと座って二人のやり取りと見ているだけだった。

『…譜迩の奴、俺がチョコレートいらないって言ったのに…』

琉稀は胸中でそんなことを考えながら、ボウルを抱えてチョコを溶かしている譜迩を見る。

「あっ、あっため過ぎるなよ!」

リクが譜迩の抱えているボウルを覗き込みながらそう言った。

「う、うん…大丈夫だと思う…」

料理の腕前は高い弟の譜迩と、料理は興味ないがお菓子には興味のある兄。
微笑ましい兄弟の様子をぼんやりと見ながら、琉稀は自分の兄について少し考えた。

『兄貴はメシも菓子も作れないんだよな』

琉稀はといえば、「面倒くさいから作らない」だけで、いざとなればとりあえず食べられるものくらいは作れるだろうと思っているが、兄の沙稀はきっととりあえず食べられるものがあれば食べる、という位の考えしか持っていないだろう。

『兄貴絶対サバイバルしたら食中毒で死ぬよな』

琉稀そんなことを考えている間にも、譜迩はリクにどやされながらチョコレートを作っている。

「…あぁっ! 忘れてた!!」

琉稀が所在無く眠気を感じていた時だった。
急にリクが大声をあげたもので、思わずテーブルから落ちそうになってしまう。

「おっと、ごめんな」

慌てて腕を振り回した琉稀を片手で支えながらリクが苦笑した。

「悪い、譜迩。俺4時から約束あるんだった…」

そう言われて譜迩が壁にかけられた時計に目をやると、時刻はもうすぐ4時になりそうなところだった。

「あぁ、そっか! ごめん、予定あったのに…」

譜迩は一旦ボウルをテーブルの上に置くと、所狭しと並べられた調理器具と材料を見渡してから、

「大丈夫、あとは言われた通りにするから…!」

少し不安はあったが、譜迩はにっこりわらってそう言う。

「悪いな…。わからなかったらwisくれよ!」

リクはそう言うと、エプロンを外しながらキッチンを出て行った。
残された譜迩は小さなため息をつくと、

「頑張らないと、ね!」

そう言ってチョコルチの琉稀に微笑みかける。

琉稀はじっと譜迩の顔を見上げた。

「…ん? なに?」

譜迩は不思議そうな顔をしながら首を傾げる。

「ちー…」

小さな声をあげるチョコルチの琉稀。

「ふふ…君が居てくれると、うまくチョコレートが作れそうだね」

譜迩は満面の笑顔を浮かべながらそう言った。

『……』

可愛い。

琉稀は内心そう思いながら視線を外す。
そして自分の考えを少しだけ反省した。
一口に琉稀は、誕生日がバレンタインというだけで“バレンタインという日”を恨んでいたのだ。
誕生日が某かのイベントと重なっている人間ならば少なからずわかるだろうこのジレンマ。
“自分の生まれた日”というよりは、そのイベントを中心に世界が回っている日。
自分だけの特別な記念日というものが世間から隔離されてしまっているような錯覚を起こしてしまった琉稀は、“チョコレートを作る人間がどんな気持ちでいるのか”を全く考えていなかったのだ。
それなどんな日であっても、“相手を思って送る贈り物”があるのだということに気付かなかった。

『…これって、“俺の為”に作ってくれてんだよな…』

一生懸命チョコレートを作る譜迩を見ながら、琉稀はそんなことを考えていた。
どんなものであれ、その“気持ち”を考えようとしなかった自分を改める。

「チー!」

譜迩、と呼んでみたのだが、口から出たのはチョコルチの鳴き声でしかない。

「ん?」

それでも何かに呼ばれたと思ったのだろうか、譜迩がチョコレートを冷やしながら琉稀の方を見る。

「あぁ、そっか!」

そして何かに気がついたように声を上げる。

「君、チョコルチだもんね…」

譜迩苦笑すると、

「ちょっとまだ固まってないんだけど、味見する?」

そう言って、指先につけたチョコレートを琉稀の口元へ運んだ。

「……」

琉稀はそれをジッと見つめる。

そんなに甘いものは好きではないのだが、指から流れ落ちそうになるチョコレートが酷く魅力的に見えた。
甘い匂いが鼻先を掠める。

「ち…」

琉稀は無意識に、譜迩の指についたチョコレートに口を付けた。

その瞬間―…

「っわぁっ!」

ガタン!と大きな音を立ててボウルがひっくり返り、譜迩は床に倒れてしまう。
それもそのはずだ。さっきまでテーブルの上に乗っていたはずのチョコルチの姿が、突然自分よりも大きな人影になって覆いかぶさってきたのだから。
ボウルはテーブルの上にチョコレートを撒き散らし、飛び散ったそれが譜迩の顔にかかる。

「ちょ、ちょ、ぇ、えええええっ!?」

譜迩は目の前にいる男の姿に酷く狼狽した様子で声にならない声を上げた。
しっかりと掴んだ譜迩の手についたチョコレートを舐めているのは、紛れもなく自分の想い人で。

「な、なんで…?」

思わず間抜けな声が口をついて出る。

「…チー…っ」
「い、いやちょっと…!」

琉稀は一通り譜迩の指を舐め終えると、俄かに赤くなった目で譜迩を見つめた。

「あ、ああの…っ!」

譜迩はまだ状況が飲み込めていない様子であたふたしながら琉稀の下から抜け出そうとするが、腕を伸ばして押さえ込んできた琉稀が頬についたチョコレートに舌を伸ばす。

「っ…///」

ぺろりと頬を舐められて、顔が熱くなった。
首筋についたチョコレートも、丁寧に舐め取られる。
くすぐったさに身をよじると、琉稀は唇のはしについたチョコレートを舐めながら譜迩を見下ろしていた。

「…ちょ、ちょっと…まって!」

そこで終わるのかと思ったのだが、もう一度首筋に舌を這わせてくる琉稀の肩を押しながら切羽詰った声を上げる譜迩。
背中にシンクの扉が当たる。
足の上に乗られている上に後ろにも退路がないこの状況でどうやって逃げ出せばいいのか、そればかりを考えていたのだが、

「っや、め…っ」

カチャカチャとベルトを外す音に、いよいよ嫌な汗が背中を流れ落ちる。
声を上げようとしたところで、その唇を塞がれてしまった。
ぬるりと入り込んできた舌先から、ほのかに甘いチョコレートの味がする。

「んっ…ぅーッ!」

精一杯腕を伸ばそうとしても琉稀の体はびくともしなかった。
下着の中に侵入してきた手が、譜迩の弱いところを摩り上げる。

「っ…!!」

びくりと腰がはねた。
どうしてこんなことになっているのだろうか。
譜迩は回らない頭で必死に考える。
さっきまでそこにいたのはチョコルチだった。確かに様子は変だったけれど、それは紛れもなくチョコルチで、それ以外の何者でもなかったのだ。
なのに一体何が起こったのだろうか。
今こうして譜迩を蹂躙しているのは、琉稀という人間だ。
どういうことなのか、といくら自問しても答えは出ない。
それどころか、琉稀の手によって弱いところを執拗に攻め立てられ、それ以外のことを考えることができなくなる。

「っん、っ…」

譜迩の鼻から漏れる声に、甘い色が混ざり始めた。
息継ぎに僅かに離れた唇が銀糸を引く。
直ぐに口づけられて、飲み下せなくなって溢れた唾液が唇の隙間から零れおちた。
譜迩の滲ませた雫で滑りを帯びた琉稀の指先が先端を刺激する。
言い様のない快楽が譜迩の腰を痺れさせた。

「っは、琉稀っ、待って、おねが…」

お願い、と最後まで口にすることができただろうか。
縋るように琉稀の袖を掴んだ譜迩の手が震え、欲望を吐き出す快感にびくびくと体が痙攣する。
絞り出すような動きで締め上げた琉稀の手に、吐き出したものが絡みついた。

「は、…っ、は、っ」

快感の余韻に、虚ろな目をした譜迩がそろそろと琉稀を見上げる。
次の瞬間、譜迩はハッとして再び琉稀の肩を押しやろうとするが―…

「だ、だめっ!」

絡みついた譜迩の精の滑りを借りた琉稀の指先が、後孔を掠めた。

「譜迩…っ」
「っ!」

吐息に混じった声が、耳元で名前を呼ぶ。
それだけで抵抗していた譜迩の手から力が抜けてしまった。




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