☆イベントSS☆

□バレンタイン2013@
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バレンタインの近づく街並みはどこか浮き足立っている。

そんな街中を離れた場所で、琉稀はふと自分の後ろをついてくる気配を感じた。

「…なんなの?」

頗る機嫌の悪そうな声でそう呟いて後ろを振り返ると、

「チチチッ!」

そこには人相の悪そうなデビルチが一匹。

「……」

なぜこんな街中にデビルチがいるのだろうか。
誰かのペットか?と一瞬思ったが、そいつは明らかに琉稀の後ろをつけてきたのだ。
特に攻撃を仕掛けてこないところを不審に思い、思わず「何の用だよ」と声に出す。
デビルチに人間の言葉が通じるとは思わなかったのだが―…

「チチチッ! オレは知ってるぞ!」

突然理解できる言葉で話しかけてきたデビルチにギョッとする。

「…デビルチって喋れんの?」

琉稀は思わずそう聞いた。

「オレはチョコルチだ!」

デビルチは琉稀の質問に憤慨したように短い手足をばたつかせてそう叫ぶ。

「オレは知ってるぞ! オマエ、バレンタインが誕生日なのが嫌なんだろ!」
「は?」

デビルチ、否チョコルチが口にした科白に、思わず琉稀は素っ頓狂な声を出してしまった。
何故コイツが自分の誕生日を知っているのか。
そして琉稀がそれをよく思っていないことも…。

「いや、確かにそうだけど…なんでそんなこと…」

琉稀は立て続けに起こる不可解な出来事についていけない。
自分は夢でも見てるんだろうか、と一瞬思った。

「バレンタインをよく思わないヤツには、オシオキしてやる!」

何を言ってるんだ、コイツは。

「はっww だったらどうするの?」

チョコルチだかなんだか知らないが、所詮はデビルチの親戚に過ぎないだろう。
琉稀が、相手にならないな、と鼻で笑った瞬間だった。

「チッチッチー!」

チョコルチが短い手に持ったフォークのようなものを精一杯振り回し、掛け声のようなものと同時に琉稀に向かって飛びかかってくる。
取るに足らない攻撃だ、と紙一重でそれを避けようとした時だった。
フォークの先から眩い光を放つ。

「!!」

一瞬目がくらんで、琉稀は蹲った。
何が起こったのか。
ゆっくりと目を開けると、目の前には自分と同じくらいの大きさになったチョコルチの姿があった。

『うわぁっ! お、お前なんで急にそんなにデカくなってるんだよ!?』

驚いた琉稀が声を上げると、

『チッチッチ…。オレがデカくなったのではない! お前が小さくなったのだ!』

チョコルチはさも面白そうな声でそう言う。
琉稀は慌てて自分の体を見下ろした。

『!? な、なんだこれ!!』

そこには、目の前にいるデビルチと同じような茶色の胴体に、短い足。
続けて辺りを見渡してみれば、建物はどれも高層ビルのように大きい。
琉稀はそばにあった水溜りに駆け寄ると、そこに映っていた自分の姿に思わず膝をついた。

『ど、どういうこと…』

そこに映っていたのは紛れもなくデビルチで、自分が発した声はそのデビルチから出ているのだ。
右手を上げれば、水溜りに映ったデビルチが左手を上げる。
頬をつねれば、水溜りに映ったデビルチも頬をるつねっている。
痛い。
琉稀は引きつった表情でチョコルチを見上げた。

『ふざけんなよ! 元に戻せ!』

琉稀いくら凄みを聞かせて睨んでも、その表情はデビルチのもので何の迫力もない。

『チチチチチッ! いい気味だ! 精々オマエも我々と一緒にバレンタインを楽しめ! さらばだっ!』

チョコルチはさも面白そうに笑いながらそう言い残して走り去る。

『おいコラ! ちょっと待て!』

琉稀は立ち上がるとチョコルチの後を追おうとしたが―…

『ぶっ!』

石畳の隙間に足を取られて盛大に転んでしまった。

『…クッソォ…なんだこの走り難い体はっ!』

慣れない大きさの体で、うまく走れない。
琉稀はこの現実を受け止めきれずにしばらく地面に突っ伏していた。

『…これからどうしろって言うんだ…』







* * *






「すいません、覚醒と、あとカルボを売ってもらえますか?」

昼間のプロンテラで、黒髪のハイプリーストが赤いマフラーで顔を隠した金髪のアサシンクロスと一緒に消耗品の買い出しをしている。

「ありがとうございます」

にこりと微笑んだ彼の顔をみたクリエイターの女は僅かに顔を赤らめている。
黒髪のハイプリーストはそれだけ綺麗な顔をしていた。

「もうすぐパレンタインですね」

黒髪のハイプリースト、カインは買い取った消耗品を丁寧にバッグの中にしまいながら隣を歩く金髪のアサシンクロスにそう言う。

「…そうだな。今年もチョコレートを作るイベントをやっているそうだ」

気になるのなら行ってみるか? という意味を込めての返事だったが、カインは静かに首を振った。

「チョコレートが食べたいなら、俺がつくりますよ?」
「…あぁ、たまには甘いものもいいな…」

そんなカインの言葉に、金髪のアサシンクロス、沙稀はそう呟く。

「でも、沙稀がチョコレートを作るなら…」

イベントに行ってお願いしたほうがいいですね、とカインが続けようとした瞬間だった。

「チチチッ!」

一匹のデビルチが二人の前に飛び出してくる。

「おや…こんなところにもチョコルチが…」

この時期に街中に出没するデビルチは、バレンタインの精霊が呼び出した『チョコルチ』という、デビルチとは違うものらしい。

「チチチッ! チチチチッ!」
「…?」

しかし、このチョコルチはどうにも様子が変だ。
短い手足をバタバタと不自然に動かし、手にしたフォークを地面に突き刺したり、飛んだり跳ねたりしている。

「…随分、おかしなチョコルチですね…」

カインは訝しげにチョコルチを見ながらそう言う。
チョコルチは人に危害を加えることはないが、こんな動きをしているのも見たことがない。

「…こいつを倒せばカカオが手に入るんだろう?」
「チッ!? チーッ!チーチーッ!」

沙稀が物騒なことを口にすると、チョコルチは慌てたようにまた手をばたつかせる。

「あっ! チョコルチだ!」

そこへ、見知らぬスーパーノービスが駆け寄ってきた。

「あと一匹で討伐終わるっていうのにデビルリングにやられたのよ! 丁度良かったわ!」

そう言って、手にしたダマスカスを振り上げる。

「チーッ!」

チョコルチは情けない悲鳴をあげならがカインの足元へと隠れた。

「ちょっとォ! 倒す気がないならそこどきなよ!」

スーパーノービスはカインの前に立つと、腰に手を当てながら頬を膨らませる。

「…いえ、これは俺の獲物なのですみませんが引いてもらえますか?」
「はぁ?」

カインは足元のチョコルチを抱き上げて、

「ちょっと外に出ればいくらでもいるでしょう?」

と少しばかり底冷えするような冷笑を浮かべてそう言った。

「…う、わ、わかったわよ! 変なヤツ!」

スーパーノービスは一瞬言葉に詰まったが、それだけ言うとさっさとその場から立ち去ってゆく。

「…どうした、お前は殺さないのか」

素朴な疑問を投げかけた沙稀に、チョコルチがまた怯えたような声をだした。

「…なんでですかね、この子、俺に何か言ってるような気がするんですが…」
「…?」

不思議そうな顔をして沙稀が首をかしげる。
そしてじっとチョコルチの顔を覗き込んだ。

「チーッチ、チー…」
「……………」
「チー…ッチ…」
「……………」
「チ……」
「………」
「………」
「………わからん」
「…チッ!」

暫く見つめ合って、何か意思疎通をしたのかと思いきや沙稀には何もわからなかったようだ。
チョコルチはまるで舌打ちをしたような声を出していた。


『…俺だよ俺! わかってくれよ!!』





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