☆イベントSS☆

□其々の道〜緋奄×刹那〜
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アイツに出会ったのは、もうずいぶん昔の事だ。

あの時自分は、もう死ぬんだとそう思っていた。

崖の縁から真っ白な手を差し伸べて、覗いた顔は燃え盛る炎の逆光でよく見えなかったが、崖下から吹く風に靡く薄紫色の柔らかそうな髪とそれに僅かに蒼を足した様な紫色の瞳。

名前さえ言わずに、一言も交わさずに、アイツは自分の前から消えた。

ずっと、会いたかったのに、

自分は、アイツを、アイツの片割の方と勘違いしていたのだ。

真実を知った時に、彼は何も言わずにただ窓辺に腰掛けて空を見上げていた。

あの時と同じ様に、逆光に靡く紫色の髪。
けれど、アイツの凍った紫色の眼だけはこちらを見ていなかった。

紫煙がふわりと漂い、広がる自分とは違う煙草の香。

『…気付くのが、おせぇンじゃねぇのか…?』

鼓膜を揺らす声音に何か感情が混ざっていただろうか。


自分はどれだけ、アイツを傷つけただろう。
何度、この手でその命を消そうと思ったか。

自分は、アイツを抱きしめる資格があるのか。

腕を伸ばそうとして、鉛の様に動かなかった自分の体。

俯いたその頬に冷たい指先が触れて、あの時と同じ様に自分は顔を上げた。

氷の様な冷たい青紫色の瞳が、窓辺の月明かりを斜に受けて輝く。


『そんな情けない顔を晒すために、テメェはここに戻ってきた訳か』


じっと自分を見下ろす彼の眼が、僅かに滲んだ気がするのは気のせいだろうか。


その時からだった。
自分がコイツの為にできることは、何でもしてやると誓ったのは。

―お前の為なら、なんだってする。
 だから、俺をお前の傍に、置いてくれ―




声に出さずに、自分はその褪めた瞳をした男の、冷めた指に手を添えた。

慰めの言葉も、慈しみの言葉も、愛の言葉も、希望の言葉も、アイツにとって凶器にしかならない事なんて、もう痛いほどに知ってしまったから。



















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