☆イベントSS☆
□其々の道〜朔夜&緋奄編〜
1ページ/2ページ
緋奄は楓が手にしたソードメイスが振り下ろされるのを眺めながら、自分はなんでこんな事をしているのだろうかと思った。
「……なんか、おもしろくねぇな」
ふぅ、と溜息をつきながら言えば、
「ははは、ストームナイトでも出てくればちっとは面白いんじゃないか?」
楓は能天気にそんな事を言う。
「お前に倒せる自信あるのか」
「おーおー、随分いうなぁw なんだ?昔のお前だったら倒せるって?」
「…まぁそうだな」
緋奄は依然、刹那や沙稀、朔夜と同じくアサシンクロスだったのだ。
『あんたはマスターを護るどころか、サポートすらできてないじゃない。それでサブマスターとかよく言えたものね』
やる事がそうないと、どうでもいい事が思い出される。
あの桃色の髪をした女に、そう言われたのだ。
否、どうでもいいというのは間違っている。
どうでもよくなかったから、自分はこうして聖職者になろうと考え付いたのだから。
「完全にやり直しって言うのは大変だっただろ〜?」
楓はミストケースから落ちたドロップを拾いながら言う。
「普段殴ってばかりだった奴が、支援転向なんてさww」
考えられないねぇ、と、思わず楓は苦笑した。
「…別に、そんなに大変じゃなかったけどな」
気のない様子で緋奄が返す。
エリザに言われた事は、まさに図星だった。
自分が刹那の横に居ても、護れる術は無いに等しい。
それに刹那の戦闘スキルは自分よりも僅かだが上だった。
緋奄が刹那に勝てた試しは無い。
そんな自分が、果たして刹那に何をしてやれるのだろう。
手足となって働く事は出来ても、それ以外には特に出来る事もないのだ。
プリーストになって刹那のサポートが出来ればそれでいい。
むしろ、そうなりたかった。
「あっという間だったなぁ…転職するって言って、次に見たときにはハイプリーストだもんなw」
それだけ急いでいたのだろうことが窺え、楓は再び苦笑する。
緋奄は長く刹那の隣を開けておきたくなかったのだろう。
「どうでもいいだろ、そんな事」
あれこれ聞かれるのは好きではない。
緋奄は機嫌の悪そうな顔でそう吐き捨てた。
「取るもん取ったら、さっさと帰るぞ」
そろそろアイテムもそこそこ集まった頃だろう。
きっと自分たちよりも、他の連中の方が集めている筈だと踏んだ緋奄は、座っていた箱の上から腰を上げた。
その時だった。
「緋奄!」
テレポートで飛んできたのだろう。
突然近くに現れた朔夜が、少し怪訝な様子で緋奄に話しかけてくる。
「どうした?」
楓も様子がおかしい事に気付いたのだろう。
駆け寄ってきた朔夜にヒールを掛けてやるとそう訊いた。
「いや、俺の思いすごしだといいんだけどねぇ…」
朔夜は意味深に言葉を濁し、警戒した様子で辺りを見渡す。
「なんだか、嫌な空気だと思わない?」
朔夜はそういった事に敏感だ。
普段神経を張り巡らせる仕事を多くこなしているせいかもしれないが、勘がいい。
その朔夜が言う事だ、よからぬ事が起こるかもしれないと、楓と緋奄は顔を見合わせる。
「…琉稀ちゃん達まだ来てないなら、来ない方がいいかもしれないってWisしておいた。みんなそろそろ集めたと思うし、帰った方が…」
朔夜が最後まで言い終わるか否かの瀬戸際だった。
三人の間に突然男が現れたのだ。
「っ!?」
サプライズアタック。
ローグのスキルだ。
いち早く反応した朔夜が、その刃を自分の剣で受け止める。
反動で少し足元がもつれたが、楓と緋奄がそれを補助魔法でサポートした。
「流石だねぇ、朔夜。いい反応をする」
衝撃を受け止めた右手がびりびりと痺れている。
それほどその一撃は強打だった。
「あんた、こんなところで何してるの…」
嫌な汗が朔夜の頬を流れ落ちる。
引き攣った笑いを浮かべ、見据える先に居る男は、
「紅夜…」
その名を呟いたのは、緋奄だった。
「久しぶりだなぁ、緋奄。その後刹那とは仲良くやってんのか?」
喉の奥で笑いながら、紅夜が言う。
朔夜も緋奄も、この男には因縁があった。
紺碧の翼と対をなすギルドと呼ばれる、紅蓮の翼のギルドマスター。
一時は酷い攻城戦荒しを行った紅蓮の翼の所為で、紺碧も酷い中傷を浴びる様になった事もあった。
かつては、刹那の双子の弟である久遠が治めていたギルドだったのだが、久遠が事故で亡くなってからはエンブレムを持ち去った紅夜が事あるごとにこうして刹那のギルドを攻撃してくるのだ。
「刹那はさぞ、面白くないだろうなぁ…」
紅夜は嘲笑を浮かべながら緋奄に言う。
「…黙れ」
その言葉に、緋奄の眼が細められた。
刹那は、常に紅夜を探している。
他人から見れば好き勝手生きている様に見える刹那だが、ここに居る緋奄と朔夜だけは知っているのだ。刹那は、紅夜に止めを刺す事だけを考えて生きている、と。
『紅夜を見つけたら、すぐに私に知らせろ』
酷く冷たい眼をした刹那がそう言った光景が今でもはっきりと思いだせる。
「楓サン、悪いけど、今すぐ店に戻って刹那に伝えてくれないかな? 『紅夜が来た』って…」
朔夜は紅夜の動きを警戒しながら、楓にそう耳打ちした。
楓は何の事だかわかっていないだろうが、この状況が良くないものだという事は理解しているようだ。
二つ返事で頷くと、すぐにテレポートの呪文を口にする。
「…刹那を呼びに行かせたのか? ははは、アイツはよっぽど俺の事が忘れられないみたいじゃないか」
楓が居なくなるのをあっさりと見逃した紅夜は、そう言って溜息をついた。
その科白に思わず前に出ようとした緋奄を、朔夜が手で制す。
「…緋奄、今のあんたじゃ対抗できないよ」
「っ、わかってる…!」
朔夜は憤る緋奄にそう言ったが、かといって自分がどうにかできる問題でもないという事は分かっていた。
だからといってこの場から逃がしてはくれない事も分かっている。
それならば、楓が刹那を連れて戻ってくるまで時間を稼げればいい。
朔夜は腰に差していた剣と短剣に手を掛けた。
「へぇ、やる気だな朔夜」
そんな朔夜の様子を、紅夜はさも面白そうな顔で見ている。
朔夜は、隠密行動を得意とする暗殺者だ。
真正面からの攻撃はあまり得意ではないが、それでもこの距離ならば十八番のソウルブレイガーを当てる事が出来る。
緋奄のサポートを貰い、隙を見てソウルブレイカーを当ててゆけば少しは時間が稼げるはずだ。
「緋奄、後方支援お願いね」
朔夜は武器を引き抜くと、振り返らずにそう言う。
「あぁ。ちっと位は盾になれる。心配すんな」
緋奄は紅夜を見据えたままそう答えた。
その言葉を最後まで聞くや否や、朔夜は地面を蹴る。
眼にもとまらぬ速さで紅夜まで一気に間合いを詰めると、
「レックスエーテルナ!」
すかさず後方から緋奄の声が響いた。
間髪いれずに朔夜がソウルブレイカーを放つ。
「っ…やるねぇ」
紫色の刃が紅夜の二の腕を深く裂いた。
紅夜は少しばかり表情を歪めたものの、すぐに体勢を整えると朔夜目掛けてスキルを発動させる。
「ストームガスト!」
「なにっ!?」
思わぬクローンスキルに慌てたが、朔夜は瞬時にバックステップでそれを回避すると、一瞬でその場から姿を消した。
クローキングから隙を窺うつもりだろうか。
「レックスディビーナ!」
緋奄はストームガストの間合いから離れながら、紅夜のスキルを封じようとするが、紅夜には通用しない。
「チッ…ピアレスか…ッ!」
舌打ちをして呟くと、紅夜が徐にサイトを発動させる。
「うっ!」
瞬間、背後に忍び寄っていた朔夜の姿が炙り出された。
「キリエエレイソン!」
紅夜のナイフが閃く寸前で、光の壁がそれを弾き返す。
「サンキュ〜!」
その隙に身を翻した朔夜が、手にした武器を構えなおし紅夜に向かて走り出した。
しかし繰り出した剣撃は、紅夜の盾によって弾かれてしまう。
朔夜は弾かれた勢いのまま宙を一回転すると、着地した瞬間にソウルブレイカーを放った。
.