☆イベントSS☆
□其々の道〜沙稀×カイン〜
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白い息が宙を舞っている。
カインは、前を歩く沙稀の背中を追う様に歩を速めた。
「ねぇ、沙稀」
そうして声を掛けると、沙稀は少し首を傾げてカインを見返す。
そんな沙稀の様子に、カインは少し照れたように視線を落とすと少し躊躇いながらこう言った。
「俺、ここ初めて来ました」
カインの科白に沙稀は一瞬眼を丸くしたが、直ぐに表情を戻して脚を止める。
カインは不思議そうに沙稀を見た。
「どうしました?」
「……」
そう声を掛ければ、何やら沙稀はもの言いたそうな眼でカインを見つめる。
しかし、何か言う前に沙稀の眉間には皺が寄っていた。
「…仕事ばかりだったからな」
そしてぼそりと、申し訳なさそうな声でそう言う沙稀。
「ち、違いますよ!」
カインはそんな沙稀を見て慌てて否定する。
「別に、連れてきてくれなかったとかそんな事を想っている訳じゃありません。ただ純粋に、ここに来るのが初めてだったもので…」
そう言うと、沙稀は少し拍子抜けした様な顔でカインを見た。
「…そうか」
少しの間を置いて、沙稀が言う。
カインは紺碧の翼に入る前、リヒタルゼンの生体研究所で過ごしていたのだ。
更に、紺碧の翼に入った後も沙稀と緋奄によって強制的にレベルを上げる訓練を受けた所為で、このような初級冒険者の集まる場には縁が無かった。
その上、沙稀と共に仕事をするようになってからは過酷な任務ばかりをこなしていたのだ。
なかなかルティエに行くことが無かったのも頷けるが…
「この町の様子をみたいのなら、少し回ってみるか…?」
一般の冒険者がする事をしていないカインを想って、沙稀はそう言う。
けれどもカインは首を横に振った。
「いいえ、大丈夫です。こんど、ゆっくり…」
語尾は少し小さな声になってしまったが、沙稀の耳にはしっかりと届く。
こんな忙しい時にではなく、二人きりで時間を使える時に、という意味がよくわかった。
カインの中では、刹那の命令でくるという理不尽な理由ではなく沙稀と“時間を共有している”時に来たかったのだ。
それでも、自分の気持ちを察してくれた沙稀に心が温かくなる。
カインははにかんだ様な笑みを浮かべると、
「工場に行くんですよね? 俺はそれだけでも楽しみです!」
そう言ったカインの様子を見ていた沙稀も、僅かに笑みを浮かべて再び脚を動かし始める。
雪のちらつく街並みを見渡しながら、カインは沙稀の背中を追いかけた。
+ + +
「…手分けした方が速そうだな」
工場内部に入り、暫く一緒にアイテム集めをしていたが、どうも効率が悪い。
このような低級のダンジョンで、レベル90以上の二人が共に行動していても手持無沙汰になる事が多かったのだ。
「テレポ移動しながらやりますか?」
普段仕事を共にこなしている二人の事、同じ意見だったようだ。
カインの提案に、沙稀は頷く。
「ストームナイトが来たら、直ぐに飛べ」
沙稀はそういうと、テレポートクリップを装着した。
「わかりました。では、何かありましたらWisしてくださいね」
「…あぁ」
短いやり取りの後、二人はお互いに顔を合わせてからその場を離れる。
この事が後で思わぬ惨事を招く事になるとは、その時の二人には到底分からない事だった。
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