☆イベントSS☆

□其々の道〜アイテム探して3000里〜
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ギルドマスターの刹那によって店を追いだされた面々は、イズルードの波止場前で暫く無言の時を過ごしていた。

「…やっぱり、こうなったか」

最初にそう呟いたのは、ロードナイトのキディアだった。
その科白に一同は深い溜息をつく。

「まぁ、こんなところで時間を無駄にするくらいなら、さっさと移動した方がよさそうですね」

それに対して、事態をそう思く捕らえてない様な声で言ったのはカインだ。

「確かにそうだな〜…」

ふーっと、煙草の煙を吐き出しながら面倒くさそうに楓が言う。

「ルティエのおもちゃ工場でも行きますか〜? あそこなら毎日がクリスマスみたいなもんですし、きっといろいろと集められるんじゃありませんか?」

のんびりとした口調でそう提案したのは、ノアールだった。
途方に暮れていた面々は、頭の上の電球が灯った様に「なるほど」と頷く。

「誰か、ポタもってへんの?」

ティエラの問いに、プリースト系の二人は自分の記憶にあるメモリーを探ったが―…

「すみません、ルティエというか、アルデバランもありませんね…」
「悪いが俺も、ないわ」

カインと楓は苦笑しながらそう言う。
その答えに、一同の視線は副マスターである緋奄へと向けられた。
緋奄は我関せずという顔つきで立っていただけに、急に全員の視線が向けられた事に一瞬たじろいだ。

「…な、なんだよ?」

話を聞いていなかったのか、それとも自分がプリーストになった事を忘れているのかどっちだろうか。
といっても、緋奄がプリーストになったのは大分前である。
そして転生も経験しているため、前者の通りであったらそれはかなり頭の方を心配する結果になるのだが…

「わりぃけど、俺テレポもとってねぇから」
『はぁ!?』

緋奄の口から出た言葉に、一同は声をハモらせながら緋奄に詰め寄った。

「どうかしてるぜ、緋奄さん!」
「どういう事です?」
「…アホやない!?」
「ありえない…!」
「なにしてんだよ!」

キディア、カイン、ティエラ、琉稀、朔夜が口々に言う。

「あーっ! うるせぇよ! スキルなんて何取ろうが俺の勝手だろ!?」

そんな面々に、緋奄はいらついた声で怒鳴った。
使わないと決めたスキルは例え人の為になろうがならなかろうが、とる必要などないと切り捨てたのだ。

「移動なんてそこらのポタ屋でなんとかなるだろーが! っていうかな、お前らが覚えてれば俺が取る必要なんかねぇんだよ!」

ワープポータルだけがプリーストの存在意義ではないことは誰にでもわかる事だったが、流石にこの発言にはその場にいた全員が呆れてしまった。
厳密に言えば、緋奄がプリーストに転向したのは人の為ではない。
ただ一人の為である。
故に、彼が必要と思うスキルを思う存分発揮出来る様な仕様にしているのだが。

「刹那に『使えねぇな』って言われた事ないのかな?」
「う…っ」

朔夜がぽつりと呟いた言葉に、緋奄はぐっと言葉を詰まらせる。
場の空気が一瞬にして凍りついた。
やっぱ、言われてたんだ。と、その場に居た全員が思う。
しかし、緋奄にそんな口が聞けるのはこの場に朔夜だけである。
しかも朔夜は激昂型の緋奄を手玉にとって遊ぶのが面白いという地雷とも言える性格の持ち主だ。
緋奄の恐ろしさを知っている琉稀と沙稀は、頼むからこれ以上何もいわないでくれと胸中で念仏の様に唱えていたが、ちらりと朔夜の表情を窺えばすこぶる楽しそうな笑顔を浮かべて緋奄を見ていた。
恐る恐る対する緋奄の表情を窺えば、奥歯を噛みしめて朔夜を獰猛な眼で睨みつけている。

「…てめぇ、ブッ殺されてぇのか?」

引く地を這う様な声で緋奄がそう言った。
朔夜はひゅうっと口笛を吹くと、

「あれぇ? 上級聖職者サマの口から出たには随分物騒な科白じゃな〜い?」

いい加減にしろ!!!
沙稀と琉稀は、思わずその場から一歩離れる。
VIT型支援に転向した緋奄には、先程の刹那の様な真似は出来ないだろうと分かっていても、幼いころに植え付けられた記憶はそう簡単に消えないのだろう。

両者の間に見えない火花が(一方的に怒っているのは緋奄だったが)散っている様に見えた。

「あの〜…すいません…」

ぴりぴりと張りつめた場の空気を切り裂いたのは、思いもよらない人物だった。
後ずさった琉稀の背後から、その声は聞こえてきた。

「アルデバランなら、ありますけど…」

恐る恐るといった調子でそう言ったのは、唯一他ギルドの譜迩だった。

全員の眼が、今度は譜迩に向けられる。
それは、期待と言うよりも、この事態から脱却するために縋る様な眼にも見えたのは譜迩だけだろうか?

「マジでか!? じゃ、じゃあバランからルティエに向かおう!」
「青ジェムなら俺がだすぜ?」

琉稀が促し、楓が青ジェムをひとつ、譜迩の手のひらに乗せる。

「え…いいんですか?」

譜迩はおろおろとした様子で楓を見上げたが、

「…いいに決まってるだろほら、早く行こうぜ!」

答えたのは琉稀だった。
何としても早くこの場から立ち退きたいという気持ちが見え見えである。
楓は苦笑してその様子を見ていたが、譜迩はそんな楓にぺこりと頭を下げ、ワープポータルの呪文を唱えた。

「よし、行くぞ!」

真っ先に飛び込んだのは、キディア。

「ちょ、アンタ何してんねん!」

次にティエラが飛び込み、我先にと言わんばかりにそれに続く面々。

「久々にみんなで狩ができるとか、ちょっと楽しみですね!」
「ふん、下らん」

今まで何処に居たのか、セリオスとノアールがその後に続いた。

「朔夜、てめぇ後で覚えてろよ…」

恐ろしく尖った目つきでそう言うと、緋奄が機嫌の悪さを露わに光の渦へと脚を進める。
そんな緋奄をやれやれといった顔で見送った朔夜は、傍らで待っていた譜迩の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「ありがとね、譜迩くん。後で琉稀ちゃんに沢山誉めてもらって?」
「え…」

くすっと笑った朔夜が悪戯にそう言ったので、譜迩は一気に顔を真っ赤にしてしまう。
初対面だから何もわからないが、意味深な朔夜の頬笑みに譜迩は二の句が告げ無くなった。
何か言おうと口をパクパクさせている隙に、朔夜の姿は見えなくなってしまう。
頭が真っ白になってしまったが、譜迩は消えかけている光に気付くと慌ててその中に脚を踏み入れた。





+ + +





「うわっ、さむッ!!」

アルデバランに居るサンタクロースに話しかけ、ルティエに移動すると一面の雪景色が広がっていた。
急に氷点下に放り出され、身を切る様な寒さが襲ってくる。
琉稀は徐に二の腕を摩った。

「此処からは単独行動にしましょうか」

そう提案したのは、カインだ。
その顔にはにこりと笑みが張り付いているものの、どこか苛立って見えるのは気のせいだろうか。

「そうだな。貴様らのような下等な生き物と一緒に居ると耳も痛いが気分が悪い」
「セリオス…てめぇ」
「弱い犬ほどよく吠えるというらしいな。お前はもっとできる人間だと思っていたのだが…買い被り過ぎだったか?」
「…っ、クソが」

もう、冷や冷やさせるのは止めてくれないか。
此処には何故こんなにも相性の悪い人間ばかりしかいないのだろう。
そう思っていると、セリオスはマントを翻してさっさと先に進んでゆく。
あんな科白を吐かれたからには、着いて行くものなどいないだろうと踏んだのだがそれに小走りで着いて行くのはノアールだった。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよセリオス!」

一緒に狩に行くのを楽しみにしていたのだろうが、ノアールは振り返らなかった。
きっとセリオスと一緒に居るのが好きなのだろう、なんて物好きな奴なんだ、と一同の胸中は同じだった。

「兎に角、此処から先は好きな様に行動すればいいんじゃない?」

じゃあお先に、と言って、朔夜はその場から消える様に移動する。

「行くぞ…」
「はい」

続いて移動したのは、沙稀とカイン。

「じゃあ、俺も失礼する」
「あたしも行くわ」
「な! 着いてくるなこのアバズレ!」
「なんやの!誰もアンタに着いてくなんて言うてへんやないか!」

ペコペコに乗っているキディアは、走り出したティエラを追い払う様に剣を振りまわすが、ティエラはそれに対して鷹を呼び寄せ反撃を仕掛ける。

「くそ、煩い鳥め!」
「鳥やない! ミシェットや!」
「名などしるか!」

痴話喧嘩とも見えるやり取りと繰り広げながら、二人の背中は段々と遠ざかって行った。

残されたのは、楓と緋奄、それに琉稀と譜迩だった。

「…じゃ、緋奄サン、一緒に行きますか〜」

楓はふーっと煙草の煙を吐き出しながら、気だるそうにそう言う。
それに対して緋奄は怪訝そうな眼を向けてきた。

「何言ってんだお前、プリーストが二人で一体何になるって…」
「ほら、いいから行こうぜー…別にこんな場所で職業がなんだとか関係ないでしょー? なんなら俺の武器貸すぜ〜? 昔みたいにブイブイ言わせて…」
「は? お前が殴ればいいだろうが! っていうか、お前一人で事足りるんじゃねぇか?」
「緋奄、お前一人で高みの見物か? 一緒に楽しもうぜ〜?」
「意味わかんねぇよ! 俺が殴ったってなぁ…」
「はははっ! メリークリスマーーーッス!」
「おい、話聞けよてめぇ!」

楓は渋る緋奄を引きずる様にしてその場から連れ去って行く。
その途中で、意味ありげなウインクがバチンと取り残された二人に向かって投げられた。

「あぁ〜…」

琉稀はその意味が分かった様で、複雑な表情をしながらがりがりと頭を掻く。
対して譜迩は何が何だかわからないといった様子で眼をぱちくりさせていた。むしろ、ウインクされたかどうか気付いたかどうかも定かではない。

「…行くか」

琉稀は小さく白い息を吐くと、頭一つ分下にある譜迩の顔を見た。

「うん!」

何が何だかわからないが、譜迩はルティエに来れた事が嬉しかったのだろう。元気よく返事をすると、歩を進めた琉稀に速度増加の支援を掛けたのだった。







続。

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