☆イベントSS☆
□クリスマスだ!パーティだ!〜紅きプロローグ〜
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〜イズルード〜
開店前のバー「LOST HEAVEN」には、紺碧の翼のメンバーがごっそりと集められていました。
「…どうやら、またマスターの悪い癖がでそうだな」
ぼそりと小さな声で呟いたのは、ロードナイトのキディア・レガート。
それに対して、壁に寄り掛かった状態で聞こえないくらい小さな溜息をついたのはアサシンクロスの葵沙稀。
沙稀は無口で無表情と言う、とても形容するのが面倒くさい男です。
「今回もきっとあれやろ? 面倒くさいこと押しつけられる羽目になるんやろなぁ…折角のクリスマスや言うんに…」
テーブルに頬杖を着いたスナイパーのティエラ・クリムゾンは、盛大な溜息をついた。
そこにすかさずキディアが突っ込みを入れる。
「…かと言って、一緒に過ごす相手もいないのだろう?」
「うるさいなぁ! アンタに関係あらへんやろ!」
「ぎゃあぎゃあうるせーんだよ! 少し静かに出来ねぇのか!?」
静まり返った室内に二人の言い合いが響き始めると、ソファの上に寝転がっていたハイプリーストの颯緋奄が、恐ろしい形相で怒鳴り窓辺に置いてあった花瓶を二人に向かって投げつけます。
緋奄はとても短気で暴力的なキャラですが、マスターに尻に敷かれてぺちゃんこになっているのを時たま見かけます。
緋奄の投げた花瓶は案の定AGIの高い二人には当たることなく、床に砕け散ちりました。
「ちょっと、店の備品に手を出さないでくれます?」
丁寧な口調だが、少し震えた声でそう言うのは、クリエイターのランフィス・クリアスカイ。
唯一温厚で知的な彼はマスターの信頼も厚く、このバーの店主を任されていますが、好きな人に好きと言えずにいるヘタレ人間です。
「まぁ、緋奄さん…紅茶でもどうです? ブランデーは多めに用意しましたけど…」
緋奄が咥えた煙草にすかさず火をともしたのは、アサシンクロスなのかハイプリーストなのかわからない男、カイン・ハーヴァイル。
彼の慇懃無礼な態度はギルド内でもワースト3に入るくらい厄介に思われています。ぶっちゃけ沙稀以外どうなってもいいと思っているのが見え見えだからです。
「それを飲んだら暫く大人しくしていてくれ。下衆はこれだから好かん」
「…んだとてめぇ!」
「だから少し大人しくしてろって言ってるでしょ!?」
離れた場所で紅茶を飲みながら本を読んでいるのは、ハイウィザードのセリオス・グラストヘイム様。
彼は物凄く知識量が豊富で、あらゆる面において秀でているとてもいけ好かない人間です。上から目線の俺様性格ですが、それがたまらないという人をストーカーに仕立て上げてばかりいます。
その横には、難しい顔をしながらメニューを覗きこんでいるプロフェッサーのノアール・バレンタインが座っていました。
彼はドが無限に着く天然で、見ていてたまにいらっとする事もありますが、知識量はセリオスにも負けず劣らずあります。
そして今にもキレそうな緋奄に鉄槌を食らわせたのは、ハイプリーストのエリザ・クロスハートでした。
彼女は、通称「ゴリラ女」と呼ばれるSTR特化の殴り型ハイプリーストです。その攻撃は杖で深淵を吹き飛ばせるくらいだと、某アサシンからの情報が入っています。
「面白いねぇ…沙稀ちゃん」
「………」
それを面白そうに眺めているのは、アサシンクロスの朔夜。
何処がどう面白いのかは、彼にしかわかりません。
彼はうわさ話や、人の秘密を知りたがるウザい人間で、それをみて楽しむすこぶる嫌な性格をしています。結構な人の弱みを握っている様ですが、本人はそれを悪用しようと思ってはいない様です。
あくまで本人談です。
「あ、ランフィスさん! これ滅茶苦茶美味しんです! 僕好きなんですけど頼んでいいですか? …ああでもどうしよう…こっちも美味しそう…でもなぁ…食べた事ないから…う〜ん…う〜…まようなぁ…やっぱりこっちが…」
ノアールのこの発言には、誰もが空気読めよと思いました。
けれどノアールにとってはいつもの事です。
「好きなもの頼めばいいんじゃね…?」
カウンターで一人ビールをかっ食らっていたのは、プリーストの紅月楓です。
彼は本当にどうでもよさそうに物事を言う人です。セフレが多く、病気が心配になります。
そんな人たちがひしめき合う店にしばらく時間がたつと…
「…ちょ、ちょっと琉稀…ほ、本気なの…っ?」
「うるさいなぁ…少し黙っててくれない?」
「や、だって…こ、怖いっ…」
「…今更怖いとか言うわけ…?」
「だって…」
外からまるで、「ラブホに行くのが初めての彼女を諭して連れ込もうとしている」様な会話が聞こえてきました。
『………』
色恋沙汰に飢えている紺碧の翼メンバーは、今までてんでバラバラだった団結力を結集し、何故か一同に黙って扉の方を凝視しながら耳を欹てます。
「…こわいなら、ちょっとならしておこうか?」
「え? ど、どうやるの…?」
「ちょっとかじるだけ…」
「か、かじる!?」
「…少し落ち着かせてやるよ。逆に興奮させてあげてもいいけど…」
「ば、馬鹿言ってないで…ってちょっと琉稀ぃ〜〜〜ッ!!」
店内に居たメンバー達は、何時の間にかその団結力を強め、殆どの人間(セリオス・ノアールを覗く)がドアに耳を押しあてていました。
その瞬間―…
『う、うあぁああああああああッ!?』
外に居た紺碧の翼の一人、アサシンの琉稀が徐にドアノブを捻りました。
当然ですが、ドアに寄り掛かっていた全員は突然支えを失って折り重なる様に倒れ込む羽目になります。
琉稀は、このギルドにおいて遊び人というポジションが確定していましたが、少し前に恋人が出来てからは仕事も少しやる様になりました。
「…みんな何してんのかと思えば…」
中々起き上がれないでいるメンバーを見下ろし、琉稀は少しばかり引き攣った笑顔を浮かべました。
「あ、あの…お、お邪魔します…」
琉稀の後ろに隠れる様にして顔を出していたプリーストは、桜譜迩。
少し前に琉稀の恋人になったアゲマ…アゲチ…(どっちでもいいですね。)です。
「今日、刹那サンがクリスマスパーティするからコイツも連れて来いって言われてんだ。
…ところでアンタら何してたのこれ…」
何とかドアの前から移動した面子に対して、床に散らばった花瓶の破片を見つけた琉稀がそう言います。
「…ちょっとはしゃいでいてな」
ふ、と笑い、何事もなかったかのようにそう言ったのはキディア。
そしてすかさず乱れた髪を整えると…
「俺の名前は、キディア・レガートだ。よろしくハニー」
「え、え…?」
そう言って譜迩の前に跪くと、脅える譜迩の手を取ってその手の甲に口づけを…(恋人の前でよくそんなことできるな恥ずかしいです)
「ナニ晒すんじゃボゲェエエエ!!」
という掛け声とともにシャープシューティングを発動させたティエラが、譜迩の背後からその体を抱きこみました。(同上)
「あらぁ〜…ホンマに可愛い男の子っておるんやねぇ〜…ものごっつぅ可愛がってあげたいわぁ〜…ベッドの中で〜…」
「えええっ…ちょ、っとあの…!」
そしてティエラは意味深な事を言いながら、厭らしい手つきで譜迩の頬を撫でました。
「っく、このド変態女が…っ!」
「なんやのアンタ! きんもいナルシストの分際で!」
「ふん、ナルシストで何が悪い!?」
「大体なぁ、この子男の子やで!? アンタがいくらかっこつけたところで何の得にもならんのとちゃうん?」
「同性に認められてこそ、真の男と言うものだ!」
「鏡を見てから言うてもらおうか? あんたみたいに痩せた男に憧れ持つ男が何処に居るいうんや!?」
「う…、これは体質で…。そもそもだ!お前の様な年中発情期の女に…
「うるせぇっつってんだろぉぉおおおおお!!」
そして本日2個目の花瓶が宙を飛んで…
「よぉ、お前らそろってるか…」
『!?』
その場に居た誰もが、「やヴぇええええええええええ!」と思った瞬間でした。
AGIの高い二人に当たるわけがない花瓶が、二人をスルーして飛んで行った先には、運良くギルドマスターの刹那が立っていたのです。
『………!!』
花瓶は、見事に刹那の頭に直撃し、飛び散った破片が床に散らばりました。
刹那の表情はびっしょり濡れた前髪の所為で見えませんが、水滴に赤いものが混じっている様な気もしなくはないです。
「…ヒ、ヒール!」
「ポーションピッチャー!」
「ブレッシング!」
「サンクチュアリ!」
「速度増加!」
「解毒!」
「グロリア!」
「エンチャントポイズン!」
「アスムプティオ!」
「ベナムダスト!あ、やヴぇ解毒!」
「ウィンドウォーク!」
「キリエエレイソン!」
誰かがヒールを掛け出した事により、一斉に補助魔法が刹那に向かって掛けられますが、刹那は相変わらず俯いたままでした。
「…てめぇら…」
ぼそり、と小さな声で言う刹那の眼がきらりと光り、
「全員一回死ね!! メ テ オ ア サ ル ト !!」
「う、うわぁああああ!」
「お、落ち着いて刹那s…!」
「ま、マスターが乱心だぁああああ!」
「誰の所為だこの下衆野郎どもがぁあああああああ!」
次々と仲間が倒されていく中、部屋の隅の方でセーフティウォールを展開したセリオスとノアールだけが何事もなく座っています。
そして、屍の中立っていたのは高VITの緋奄だけが何とか持ちこたえていました。
「…てめぇはなぶり殺しにしてやる…」
「冗談はよせよ…お前花瓶避けられた筈だろわざと当たりやがって…この野郎」
「……。何の事だか?」
刹那の返答に、緋奄は顔が引きつるのを感じました。
暇つぶしで人を瀕死に追い込む様な人間だったのだ、と、改めて覚ったのです。
「…テメェよっぽど暇だったんだなぁ…」
「問答無用! ソウルブレイカー!」
しかし刹那にとってそんな事はどうでもいい事でした。
「はっ…いい加減茶番は止めろよな…」
緋奄はそう言うと、無駄に長い詠唱を始めました。
「レディムプティオ!」
そしてスキルが発動します。
「わ〜! 見てくださいセリオスさん! 僕初めて見ましたレディムプティオ!」
「ああ、あまり使えないスキルだからな…」
傍観している二人はとても楽しそうです。
「ほぉ、面白いものを見せてもらった。では、おやすみ」
気絶していた人たちが立ち上がるのと同時に、刹那は一瞬にこりと微笑みましたが、それと引き換えに瀕死になった緋奄には紫の刃が…
「と、言うわけでだ! 今から此処でクリスマスパーティーを始めようと思う! 当然だが私はなにも用意していないから、テメェらが何とかしろ」
刹那はにこやかな笑顔でそう言いましたが、テーブルや椅子がひっくり返り、殆どの食器が割れて飛び散り窓ガラスもなくなっている店内には、ゲンナリとした空気が満ち溢れているだけでした。
「さっさとしろ! 日が暮れちまうだろ!」
刹那はギラリと眼を輝かせてそう言います。
紺碧の翼のメンバーは、その言葉で店から飛び出して行きました。
みんなやる気が出たようで、何よりです。
さすがギルドマスターです。
それでは、次回は「其々の道〜アイテム探して3000里〜」をお送りしたいと思います。
ノシ
「ね、ねぇ琉稀…俺…此処に居てもいいのかな…」
「ちょっと今それ聞かないでくれる?」
「……ごめん」
続!