萌の掃き溜め

□Need you!※
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するりと首筋を滑ったのは、柔らかい感触。

「っ、…」

くすぐったさに思わず肩をすくめると、それを咎めるように肩を押さえ付けられた。
そして、べろりと耳の裏まで伝う生温かく湿った舌先。

「ちょ、うぁ…っ」

少しきつめに吸われて、思わず城之内は身を捩った。
こう言う時に自分の弱い場所を知られているのは絶対的に不利だ。
それに付け加えて、利き腕は壁に縫いとめられてしまっている。
左腕で抵抗しようにも、それごと肩を押さえ付けられていたら思うように動けなかった。

「か、海馬っ!」

このまま、ここでやる気だろうか。
城之内は狼狽した。
何といっても此処は部屋の入り口付近で、誰かがドアを明けでもしたら直ぐに見えてしまう様な所だ。

「おい、っおい待てって!」

コイツは耳を何処かに忘れてきたのか!
全く城之内の心情を理解していない海馬は、Tシャツをめくり上げて手を突っ込んでくる。

「おい! っぁ、馬鹿やろ…ッ!!」

自由になった利き腕で、海馬の肩を押し戻そうとするが、器用な指先は既に城之内の弱い場所を狙っていて、思う様な力が入らない。
抵抗らしい抵抗も奪われそうだった。

途方に暮れていると、いつの間にか肩口から顔を上げた海馬が真正面から城之内を見つめている。
蒼い眼に吸いこまれそうだった。

こいつは、催眠術師かなんかか。

視線があっただけで、身動きが取れなくなる。

「口を開けろ」

漸く顔が見えれたというのに、海馬は碌な会話もなしに城之内の頤に手を掛けるとそう言った。

「なぁ、海馬…、こんな場所で…っ!」

説得を試みようと口を開くが、科白を最後まで言わせてもらう事が出来ない。
けれど、顔を背ける事が出来なかったのは何故だろう。
半開きの唇が触れ合うのと舌が触れ合うのはほぼ同時だった。

「んっ…ぅ、っ」

ああ、もう駄目だ。

陥落する。
こんなに早く落ちてしまうなどと想像できただろうか。
城之内は自分を呪った。
暫く触れていなかったし、それに、あんな眼で見られたらこちらの気分もどうしようもなく上がってしまう。
それに付け加え、この性急な口付けは最早止めの一撃に他ならなかった。

滑る舌先が口内を蹂躙する。
擦り合わせるだけで、甘いシビレが腰を食んだ。
僅かな隙間しか開いていなかった体を密着させる。
両腕はいつの間にか、海馬の項へと回されていた。

唇が触れ合ったまま、舌を絡ませたまま、海馬は城之内のベルトを寛げる。

「は、っ…う、んッ」

ゆるい腰ばきのジーパンは、ガシャリと音を立ててベルトごと床へ落ちた。
いつも色気のない下着だと罵られるが、今日ばかりは海馬にもそんな余裕はないのだろう。
下着の中へ侵入した指先が、ゆるく反応を示していた城之内へと触れる。

「っ、ぁ…はっ」

僅かに離れた城之内の唇から、甘い吐息が漏れた。
もっと、触ってくれ。
もう此処が何処かなど、どうでもよかった。
下着を引き下ろされ、海馬が床に膝を突く。
こんな姿を見れるのは城之内の他にはいないだろう。
天下の海馬コーポレーションの“高慢な”代表取締役兼社長が、一般人の前に膝を突くなど想像さえできない筈だ。
これから何をされるのか、もう先は見えている。
城之内は無意識に唾を飲み込んだ。

「ぅあっ…ぁ、っ!」

片足を肩に乗せられ、脚を開かされる。
眼を閉じた海馬が、一気に喉まで城之内を咥え込んだ。
さらりと指通りのいい茶髪に指を絡め、城之内は身を屈める。
びくりと太腿が震えた。

息が上がる。
吐息に混ざった声が酷くイヤラシい感じがして、城之内は思わず口元を手で覆った。
柔らかく蠢く舌が括れをなぞり、唇が滑る感触に腰が浮きそうだった。

「海馬っ、海馬、も、ぁ―…ッ!」

口を離してくれ、と言いたかったのに間に合わなかった。
おそらく海馬にはそのつもりは全くなかっただろう。言ったところで無駄だったが、それでも離して欲しかった。
結局それも無駄な抵抗で、城之内は海馬の肩に爪を立てて泣きそうな声を出す。

「…何も飲まなくたっていいだろ!」
「ふん…」

海馬は城之内の科白に不機嫌そうな顔をしながらぺろりと唇を舐めた。

「貴様が早漏すぎるのだろう?」
「ばっ…うるせぇよ!!」

そんな事で文句を言われる筋合いはない。
城之内は海馬の理不尽な物言いに溜息をついた。
けれども、なんだかこの言い合いも悪い気がしないのは久々だからだろうか。

「少し黙っていろ、凡骨」
「凡骨っていうな!」
「…城之内…」
「う…っな、なんだよ…」

急に名前を呼ばれ、心臓が跳ねた。
城之内は少しばかり狼狽するが、立ちあがった海馬は小さな溜息をつく。

「相変わらず色気が無いな、貴様は」
「う、うるせぇよ!」

そう言って少し笑った海馬の顔がなんだか見なれなくて城之内は僅かに視線を逸らした。
悪態をついてしまうのは仕方がない。
色気だの何だのと言うのならば、いちいち気に障る事を言わなければいいのだ。
城之内はそう思ったが、実際海馬に優しくしてもらったところで何だかしっくりも来ないのだろう。

「ふん、貴様が従順に従ったところで気味が悪いだけだがな」

どうやら海馬も城之内と同意見らしい。
それなら上等だ、と、城之内は自ら海馬の唇に噛みついてやった。

「貴様には駄犬というよりも、野良犬と言うのが性に合っているな」

言う事を聞かないバカな犬、というよりは、手の着けようがない野犬というのが似合っている。
海馬は口元を吊り上げると、城之内に見せつける様にその綺麗な指を舐めた。
それを何に使うのかなど、言われなくてもわかっている。
分かっているからこそ、城之内はそれを直視できなかった。

「自分でしていたか?」

俯いていると、そう言った海馬の滑る指先が自分の指に絡みついてくる。
一瞬何の事を言われているのかわからなかった。
絡まった指ごと舐められて、ゾクりと背骨が震える。

「っ、何言って…!」

これからどうされるのかと考えていた城之内は海馬よりも一歩後手に回る事になってしまったのだ。
先回りしようとしていたのに、これでは元も子もない。

海馬は城之内に、自分で自分を慰めていたのかと聞いていたのだ。
ベッタリと唾液で濡れた指が、自分の後孔に触れる。

「ちょ、やめろっ…!」

叫んだ瞬間に自身を掴まれて、抵抗が緩んだすきを突かれた。
何処まで器用なんだろうかと、変なところで感心してしまう。
ぬるりと後孔に入り込んだのは、城之内自身の指先だった。










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