+chaos+

□深紅の月
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深紅の月




「久しぶりじゃない?琉稀」
突然背後からそう声をかけられ、琉稀はビクリと肩を揺らした。
聞き覚えのある声だ。そして同時に、出来ればあまり聞きたくない声だったりもする。
振り返りたくない、と琉稀は思った。
なんでこいつが自分の家にいるのだろうか。
「か、楓さん…今日はどういった用事ですか…?」
琉稀は振り返らないままそう聞いた。
「別に、用事ってほどのものはないんだけどね…」
楓と呼ばれたプリーストは一向にこちらを向こうとはしない琉稀に対して、特に気にした様子もなく向い側のソファに腰掛ける。突然やってきた自分に愛想のよい返事をしないことぐらい承知だ。だがこうすれば否が応でも琉稀は自分の方を見ざるを得ないということがわかってる。
琉稀はそんな楓に引き攣った笑顔を向けた。
「そ、そうなんだ…」
このプリースト、紅月楓は琉稀と同じ「紺碧の翼」に所属する殴りプリーストだ。
一見すれば顔質の整った好青年に見えるだろうが、長いこと楓と付き合いのある琉稀にはその性格が常人よりも若干歪んでいるということが分かっているため、あまりこうして二人きりになりたくないという思いがある。
楓と一緒にいていいことなどあっただろうか。
それに付け加えて楓はプリーストの法衣をまとっているものの、Lvはすでに99以上に達しているのではないかと思わせるくらいの力量があった。
そんな楓に下手な扱いをすれば痛い目を見ることくらい経験上よく知っている。
「琉稀さぁ、プリースト嫌いなんだってね」
思考回路をフル回転させて当たり障りのない話題を探していた琉稀に、楓は飄々とした態度でそう言った。
「え…?」
先ほどまで目まぐるしく稼働させていた脳内の活動が一瞬にして止まる。
そんな話どこで聞いてきたのだろうか。
「この前ギルドの宿で言ってたじゃん。俺聞いちゃったんだよね〜…」
にやり、と素行の悪そうな笑みを浮かべながら楓は琉稀を見た。
胸中で聞いていたのか、と呟く琉稀の背中を嫌な汗が流れ落ちる。
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