☆イベントSS☆

□其々の道〜沙稀×カイン〜
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「……」

沙稀は目の前に居たクルーザーをソウルブレイカーで駆除すると、何故か落ちつかない様な気持ちで辺りを見渡した。

これは、一体何だろう。
胸の辺りに何かがつっかえている様な、嫌な感覚だった。

《カイン、そっちは大丈夫か?》

胸騒ぎというものだろうか。
沙稀は何ともなしにカインにWisを送る。
ややあって、カインから返事があった。

《…心配ありませんよ? そっちは、どうですか?》

至って普通の返事が返ってくる。

《…あぁ、問題ない。ある程度集まった様なら帰還しようと思うんだが…》

沙稀は自分の思い込みだったのかと思い直し、そう送り返したのだが、暫く経ってもカインからは返答が無い。
沙稀は外していたテレポートクリップを装備し直すと、カインを探して移動を始めた。

カインの身に、何かあったのだろうか。
モンスターが湧いていて返事が出来ない場合もあるだろうが、そうだとしてもこの程度の場所ではそれはあり得ない。
沙稀の胸にある蟠りはますます大きくなっていった。

そして、何度目かの移動で突如目の前に現れた光景に驚愕する。

無数の触手に絡めとられたカインの姿が、そこにあったのだ。






「カイン!」
「!!」

頭の中ではなく、直接鼓膜を揺らしたその声に、カインはビクリと体を動かした。

「っ、来ないで下さい!」

思わずそう叫ぶ。
見られたくなかった。
知られたくなかった。
こんな自分など…。

「…邪魔しなイで戴けますカ?」

沙稀から顔を背けていると、何時の間にか沙稀の背後に回ったカグヤがそう言う。
慌てて沙稀の方を見れば、カグヤの体から生えた触手が沙稀に向かって伸びて行くのが見えた。

「っ、やめろカグヤ!!」

沙稀には、沙稀にだけは手を出させるわけにいかない。
カインはありったけの声で叫んだ。

「ぐぁぁああああああ!」
「!!」

しかし、苦痛の声を上げたのはカグヤの方だった。
無数の紫色の刃が、宙を舞って触手を切り落とす。
触手は沙稀に届く前にバラバラになったのだ。

「ぐ、っ…ぅ」

カグヤは体の半身を押さえ、沙稀を睨みつけながら苦痛に耐える。
体を拘束する触手が緩むと同時に、力の抜けたカインの体が地面に落ちた。
解放されても、カインの体は痺れて思う様に動かない。

「さ、沙稀…俺の事はいいですから、逃げて…」
「黙れ」

カインは俯いたまま立っている沙稀に向かってそう言うが、沙稀は静かな声でそう言った。

「お前は、誰のものに手を出したかわかっているか?」

沙稀は続けてそう言いながら、顔を上げる。
ぐっと閉じた眼が開かれ、血色の光を帯びて輝いた。
見据える先には、半身を異形に変えたカグヤの姿。

「フフっ…所詮アタナ達人間に、ワタしが倒せるわけガあリません!」

カグヤは苦痛に表情を歪めながらも、血走った眼を見開いてそう言う。
そして再び無数の触手を沙稀に向かって伸ばし始めた。

「!?」

触手が沙稀の体を貫くか、と見えた瞬間、沙稀の体はカグヤの眼の前に移動していた。

「お前は、誰のものに何をしたか…」

わかっているか。
そう言うのと同時に、沙稀の手にしていた裏切り者が一閃する。
どす黒い体液が、宙を舞った。

「―――――――!!」

これが生き物からでる声だろうか、と思うくらい不気味な音がカグヤの口から迸る。
まさに断末魔という声だった。
どしゃりと水を含んだ塊が散らばる様な音がして、どす黒い塊と化したカグヤが地面に落ちる。と同時に、それは砂の様に崩れた。



「……」

カインは、ただそれを茫然と眺めている事しかできなかった。
沙稀はそんなカグヤの遺体には眼もくれず、紅い瞳でカインを見ている。
カインはその瞳に囚われたまま、身動きが取れなかった。

「沙稀…」

カインは思わず沙稀の名前を呼ぶ。
その瞬間だった。
バチン、と沙稀の平手がカインの頬を打つ。

「……っ」

頬を押さえたまま、カインは顔を戻す事が出来ない。
口内を切ったのか、血の味が口の中に広がる。
痛みからなのか、心情からなのかわからない涙が目尻に滲んだ。

「どうして呼ばなかった」

無感情に抑揚のない声が、そう言う。
とめどなく雫が頬を伝った。

迷惑を掛けたくなかった。否それ以上に、こんな状態の自分を見られたくなかった。
助けて欲しかった、けれども沙稀に請う事など…

「どうして呼ばなかったって聞いてるんだ!」

動かないカインの頤を捕らえ、沙稀が無理やり視線を合わせてくる。
紅い瞳と赤い瞳がかちあった。

「また俺に迷惑を掛けたくないとか言うのか?」

沙稀は淡々とした声で言う。
しかし、それは何処か自嘲を含んで揺れている様にも聞こえた。

「俺はそんなに頼りないか?」

沙稀は、こんな風に怒るのか。
何処か冷静な自分が、斜め後ろから見ている様な心地がする。
カインはやや放心したように沙稀を見つめていた。

「帰るぞ」

乱暴に腕を引っ張られ、無理やり立たされる。
ワープポータルの呪文を唱える様に言われ、カインは無言でそれに従った。
何を言っていいのか、自分でもわからなかった。
沙稀は頼りなくなどない。
沙稀はカインよりもスキルも状況判断も格段に上だ。
けれどもカインは沙稀を危ない眼には絶対に合わせられない。
自分が死んでも、沙稀には傷一つ負って欲しくないのだ。
どうしたらいいのか、もうわからなかった。










【後篇】に続きます。
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