黒の狂詩曲

□1章
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・序幕







今日は月がとても綺麗だった。




黒い夜空に大きな金色の満月が空に浮いていて、
白い霧のような雲もあちこち散らばっている。


中々幻想的な夜だった。







『ちょっと寒いね、アルガ』


1人の少女はアルガと言う名の真っ黒な大蛇の背中に座っていた。
冷たい風が少女を撫でる。
頭のてっぺんのアホ毛を揺らし、
後ろに散らばる髪を整えながら
心地よい風を感じて少女は目を細めた。



黒い大蛇は優雅に少女を乗せながら宙を泳ぐ


月をバックにすいすいと泳ぐ大蛇。
少女、風峯紫音は黒い夜空を見据えていた。



それは幻想的な光景だった。




ただ、それは普通ではありえないのは確かで…



「主、俺は寒さなんて感じない。」



『まぁ、“炎”で作られてるもんね。』



クククと喉で笑いながら紫音は黒大蛇の背中に寝転ぶ



その瞳はただ黒い夜空だけを映していた



「…………主、また思い出してるのか?」



『まぁ、ね。』


小さく苦笑しながらそっとアルガの背を撫でる。



「…寂しいという感情か。
俺は寂しいだなんて感情抱いたことなどない。」



『大丈夫。寂しくはないよ。
わたしにはアルガがいるもん。楽しいよ
アルガはどう?わたしといて楽しい?』



「……………別に悪くはない。」



『ふふっ、ほんと?嬉しいな』


紫音はハニカミながらアルガを優しく撫でた。




「主、そろそろ降りよう。
あいつとの待ち合わせがある。
明日からは祓魔塾に通うのだろう?」


『そうだねえ……
集団生活なんて2年ぶりだからなー
上手くいくかな…?』



「主のその何も考えないバカ正直な性格なら大丈夫だろう。」



『それ貶してんの褒めてンのどっちかな?アルガ』



ヒクッと口元を吊り上げる紫音



「ただ正直に思ったことを言っただけだ。
主がそう言えとあのときに言ったんだろう。」


『はいはい、そうですねーわたしが悪ぅございました。』




ちぇー…そんなに言わなくてもいいじゃないか。
確かに思ったことは即言えとは言ったけどさー

まぁ、いっか。
うそを並べられるよりは断然マシだ



そう考えたら、何でもはっきり言ってくれるこの子は良い相棒だ―――………






拝啓、奥村燐、奥村雪男様。




この寒い日に如何お過ごしでしょう?

風邪は引いていませんか?

わたしは、この通り元気です。


わたしは明日から正十字学園の祓魔塾に通います。


雪男は祓魔師を小さい頃から目指してたね。
ああ、医者にもなりたいって言ってたっけ。
雪男は頭が良いもんね、
何にでもなれるよ。

もう今は下二級、下一級にはなってるかな?
怪我に気をつけてね。




燐はまだ喧嘩ばっかしてるかな?
優しいのに勿体無い、また勘違いされるよ………

そろそろ、燐は力が目覚めた頃、かな……………?
色んなものに襲われ、命を狙われる


でも、大丈夫だよ。
青い炎には敵わないけど、力を手に入れたの。
ようやく操れるようになった。
まあ、まだそれでも未完成であることには変わらないけさ



燐、わたし祓魔師になる。
祓魔師になってわたしは貴方を護る。



燐だけじゃない、雪男も護りたいの。
貴方達はわたしを闇から救ってくれた大切な家族。



必ず、護る。


お父さんの分まで………わたしが護るよ。



だから、天国でわたし達を見守っていて下さい

いや、そんなの都合の良い話かもしれない


お父さんの反対を押し切って勝手に出て行ってさ……


ごめんなさい。


でも、どうしても力が欲しかったの



大事なものを二度と失わない為に――……



でも、結局は……また“大切な人”を失った。


もう失いたくない、


もうあんな思いしたくない。


だから、護る。



その為に得た力なんだから………



「主、そろそろ……」


『そうだね、お願い。』


想いに更けながらそっと紫音は目を閉じた。




そしてそれと同時にアルガは急降下した。








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