恋文

□菫
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明け方まで睦言を囁き合い、腕の中の温もりに後ろ髪を引かれながら床を抜け出したのは四半刻前。


どうしても外せない隊務の為に屯所へ駆け戻る道すがら、足袋を濡らす朝露にふと立ち止まる。


なんということもない田舎道の、田畑に向かって流れる小川の畔。


何気なく目を向けると、昇り始めた朝日に煌めくせせらぎを縁取るように、岸辺で揺れる紫の花。


雑草に埋もれるようにひっそりと佇むその姿は、控え目にたおやかに、だが凛とした強さを内に秘めてしっかりと前を向いている。


顔を合わせれば離れ難くなる、と心地良さげに眠る額に口付けてそっと出て来たが、屈み込んで眺めるうちにもう一度会いたくなった。


摘み集めたのはやっと咲き始めたばかりの菫。


鮮やかな色彩に朝露を飾り、可憐に微笑むこの菫を、今頃ひとりで目覚めただろうおまえに手渡せば、どんな顔で受け取ってくれるのだろう。



黙って出て来た事を怒るだろうか。



戻って来た俺に驚くだろうか。




そしてそれから




蕾が綻ぶように微笑ってくれるだろうか────……











『朝露に

 ひっそり濡れる すみれ花

 今ひとたびと 摘んで戻らむ』






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