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□痛みとそれに伴う喪失感
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悪夢をみる。

ここのところ、毎晩毎晩。

左側が酷く痛む。

それと伴うかのように、何かの喪失感。

弟、そうだ。俺の弟。

まさか建物、周辺一帯全てが爆発するなんて思わなかった。
あの日。
確かに死んだはずだったのに、生きてた。
身体中はツギハギで。まるでゾンビ。
ああ、これって、あいつの皮なのか。
初めて自分の体全体を見たとき、弟の顔が薄れた。










真夜中となると、あの煩い同室の奴も、あの看守も眠っている。
最近は眠りが浅くて、夢に叩き起こされることが多い。
かと言って夢相手にキレるほど馬鹿じゃないから、この苛々は嫌でも積み重なっていく。
静かに息を吐き、眠る前に読んでいた雑誌の続きを捲った。

ぱら、ぱら

吐く息の音、同室の奴の身動く音、ページを捲る音。
真夜中の監獄では不気味なほど大きく音がたつ。
しまった、虚しい。
目を閉じて、右手で左の頬を触った。
冷たい。
生きてない。
きゅ、と唇を鋭い犬歯で噛んでみた。血が出た。
俺は、生きてる。

(兄貴、なにやってんの、血出てるよ)

うつむいていた顔を上げた。
誰もいない、幻聴。
自傷気味な笑みを一つ溢す。
ざまあねえな、と、此処に来てから初めてまともに言葉を吐き出した。

夜は長い。
悪夢は、続く。


痛みとそれに伴う失感
        または、自己嫌悪




 

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