A3!

□君が愛しいだけなのに 10
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第五回のミックス公演も無事終わり、次の公演の話が決まった。
今回は俺と九門と密さんと千景さんで、シャーロック・ホームズを題材にしてやるらしい。
遂に俺と板の上に立てると興奮する九門は、早く名前に知らせてやりたいとうずうずしていた。
情報解禁までは知らせるわけにはいかない、でも早く伝えたい。
それは俺も同じだった。

あの一件から公演を観に来る日は俺も九門も後ろの方で一緒に公演を立ち見しに行っていた。
太一の公演を観た後は特に興奮してよかったよかったと騒いでいたが、九門が楽屋に通してやるといった瞬間走って劇場を出ていった。
おこがましいらしい。

椋の出演した第三回ミックス公演では是非来て欲しいと椋が行ったようで、すごく静かに俺と九門の後ろについてきて、小さい声で感想をつらつらと述べ、差し入れを置いてまた俺と九門の後ろに静かに隠れた。

今回の公演でもまた楽屋に来てくれるといいね、なんて九門と椋と話をしていた時だった。



「モリアーティの漫画を名前が持ってた?」
「確か持ってた気がするんだよなぁ」
「兄ちゃん、借りに行けば?モランも出てくるかもしれないよ?」
「いや出てくるだろうが…」
「ホームズもワトソンもきっと出てくるんじゃない?」
「漫画なら至さんが持ってるかもしれないだろ」
「さっき聞いたら手元にはないって」
「ならなおさら行って来たら?オレも読みたいから一緒に行こうよ!」



どうやら名前の家にモリアーティが主人公の漫画があるらしい。
調べてみると結構人気があるのか、その内舞台やアニメまでやるらしい。
役作りは始まったばかりで、今はとにかくいろんなものを吸収しようという話になっている。
千景さんは性別の違うゲームを至さんから進められて一応やってみる予定だと言っていた。

漫画とは言え、俺も九門も読んでみるのはいいのかもしれない。
ならばどこかで借りてくるかすればいいのではないかと言おうとすると九門はすでにどこかへ電話をかけている。
確認しなくともおそらく名前に連絡を取っているのだろう。



「おい九門、まだ決まったわけじゃ…」
「あ、もしもし?今大丈夫?…うん!滅茶苦茶元気!」
「行動が早いな…」
「九ちゃん、十ちゃんの事大好きだけど、同じくらい名前ちゃんの事も大好きだもんね」
「好き、」



俺と話をする時のように満面の笑顔で名前に電話をかけている。
…そういえば九門は俺と名前がすれ違っていた時期もよく一緒に出掛けたりしていたな、なんて。

昔はよく3人で遊んだり出かけたり、飯食ったりしていたから、そこから俺がただ抜けただけのような気がしていた。
しかし何だか今はそんな風には見ることが出来なくて。



「そりゃ勿論!オレ、兄ちゃんがいっちばん好きだけど、名前ちゃんも椋も大好きだよ!…え?あ、ごめん。椋がさ、オレは名前ちゃんの事好きだよねーって話しててさ。…えへへ、ホント?嬉しいな〜」
「名前ちゃんも九ちゃんの事大好きだもんね」
「そう!よくわかったね!」


多分電話の向こうで名前も九門と同じように好きだなんだと返事をしたんだろう。
いつも俺に頭を撫でられた後にするような顔を嬉しそうにしている。
それを見て椋も嬉しそうに笑っていて、「名前ちゃんが、椋も大好きだよーって!」とその満面の笑顔を椋に向ける。

椋も嬉しそうに笑っているがどうにも引っかかってしまって。



「え?いや、椋がさ、…あ、そっか、スピーカーだ!ていうか、テレビにしよ!…ほいせ!兄ちゃんと椋にもこれで聞こえるでしょ?」
『兄ちゃん?え、あ、何、3人でいるの?!ってえ、ちょっと!』
「あ、映った!ほら!十ちゃん!」
「名前ちゃんやっほー!」
『わ、私お風呂から上がってるからお化粧してない!』
「大丈夫だって、そんなに画質良くないからわかんないわかんない!」
『…今ので嫌いになった』
「何で?!」


女の敵だー!と騒ぎながら画面を隠し、それから何かしているようで、少し待つとパッと動物が表れて名前が消えた。
ぎこちなく動物が右を向いたり左を向いたりしている。
それから怒ったような顔をして、「十ちゃん!ぽかんとしてないで叱ってよ!」とその動物が吠えた。

怒っているのだろうが動物がきょろきょろしながら口を動かしている様子しか見えないので、「えらい可愛いのになったな」と呟くと、少しの沈黙の後、俺ら兄弟を何とかするように椋に叫ぶ名前の声が部屋に響き渡った。
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