ヒプノシスマイク/中編・長編

□update. 5
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あの日からアイツに会うことがない。
どれだけ外を彷徨いても、どれだけ車を走らせても出会う事がなかった。
あれだけ偶然に会えていたというのに、今では自然と会うことがなくなってしまった。

連絡先を知っているのに、連絡が上手くつかないのだ。

あまりしつこく送るのと悪いと思って調子を伺ったりはしているのだが、2日3日あいて返事が来る。
それも、あまり内容の無い文章で。



「…で?」
「で?って何だよてめぇが聞いてきたんだろうが」
「だから、お前どうするつもりなんだよ」
「どうもこうも…会ってねぇんだからどうしようもねぇだろ」
「何だそれは」



「彼女とはどうなんだ?」と突然切り出した銃兎に舌打ちをくれてから特に何もないという話をしてやればつまらなさそうにため息をはいた。
腹が立つともう一度舌打ちをして、それから煙草に火を着けた。

そっけないと言っても俺だってそうだろう。
具合はどうか、飯は食ったんか、仕事は行けてんのか、そんな程度だ。

とっくに話題何てアイツの話からそれていて、仕事だなんだと話が進む。
時折浮かんでくるアイツの寝顔と、泣きそうに俺を見上げる悲しい顔、それからあの浴室で見た感情の無いような顔。
アイツの笑った顔を見たのが何だか遠い昔な気がして、もうすでに記憶から薄れてきてしまっていた。



「そういえばお前例の案件、尻尾を掴んだんだろ?」
「尻尾までいかねぇよ、尻尾だと思って掴んだら影だったって結果だ」
「あんまりヤンチャしてくれるなよ、仕事が増える」
「お互い様だろ」
「お前がいつ俺の世話したんだ」
「忘れた」
「忘れたも何もそもそもねぇんだよ」



今度は銃兎のやつが舌を鳴らし、それからコーヒーを一気に流し込む。
時計を見れば時間はそこそこ過ぎていて。
金を払って店を出れば外はあの日と同じように綺麗に晴れていて。
大きく息を吸い込めばその温度が肺を冷やしていく。
煙草に火を着けて歩き始めれば遅れて出てきた銃兎は別の方向へと歩き出し、そこで解散となった。

車へと乗り込んでチラリとダッシュボードに視線をやる。
信号で停まった際に女々しいとは思ったがダッシュボードを開ければそこに入るのは白い紙袋で。
結局先日見かけた店へ後日行き、その店で1番アイツに合いそうな色のアクセサリーを買ってしまった。
偽って名乗った侘びだ、そう自分に言い聞かせて店のやつに包ませた。

いつも偶然に会ってたんだ、会えるだろう、そう高を括って暫く経ってしまった。
増えていく煙草の本数に銃兎のやつは顔をしかめていたが、俺が聞く耳を持っていないことくらいわかっているのだろう。



「ん、」



そんな時だった。
ピロンと音が鳴ってメールが届いた。
相手は名前で。
見れば「元気なんでもう大丈夫です」と一言だけ書かれていて。

何かしたんだろうか、そうは思うが聞けずにずるずるとここまで来ていたので、聞いてみるか。
そう思った矢先だった。



「おう」
『アニキ、二人見つけました』
「随分時間がかかったな」
『どうしますか』
「すぐ向かう」



突然入った電話を切ってから舌打ちをする。
どうしてこうも何かしようとすると事件に一歩近付くのだろうか。
今ではないという暗示なのだろうか、はたまたただ単に俺が逃げているだけなのか。

…逃げているんだろう。

次に連絡が来たら話をしよう。
どこかで会って、それから侘びて。

何と切り出せば良いかと悩みもしたが、きっと何とかなんだろ、そんな甘い考えで俺はそのまま仕事へ向かった。
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