ヒプノシスマイク/中編・長編

□ヒロインな俺のヒーロー 4
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あの日を境にまた再び会話をするようになった俺らは前よりも仲良くなった気がする。
周りは時折驚いたような顔をするやつもいたけどそんなのは初めの内だけだった。
俺が話をしたいのは彼女だし、名字だし、名字もそう言ってくれているのだからもう他なんて気にしない方がいい。

時折彼女が「仲良かったっけ?」なんてなんて聞かれている場面を見ることもあった。
勿論俺も聞かれる。
お互い「そうだ」と言ってしまえば周りも特別詮索するわけでもなく。

またいつもの日々に戻っていた。

…戻っただけで進展はない。

そう、何も進展はないのだ。
彼女の家の犬がメスのリオだということ、彼女には兄貴がいること。
ケーキは生クリームよりフルーツ系が好きだと知った。
クッキーやビスケット等よりもグミやラムネみたいな細々したものを良く食べるのを見かけるし、ジュースは炭酸よりもオレンジジュースやリンゴジュースを飲んでいたと思う。

音楽は女子高生がこぞって聞く甘ったるい歌詞よりも、大人も誰でも聞くような、ドラマの主題歌だったりをよく聞くらしい。
アニメはあんまりみないらしいが、漫画は読んだりするらしい。



「は?ストーカーじゃないか」
「お、お前がアイツの好きなもん聞いてきたんだろ?!」
「そこまで聞いてない」
「…つーか、何でこんな事教えてやらなきゃなんねぇんだよ」
「はぁ?お前がいつまでたっても礼の1つもできないからだろ?」
「んぐっ…」



…ごもっともで。
仲直りをした日にコンビニにでも寄ったときに…と話しはしたものの、名字には部活があるし、俺は帰宅部だし。
自販機でだって早々一緒になる訳じゃない。

それなのに今さら「これやるよ」と持っていっても名字だって訳がわからないだろう。
そらならまた何か世話になった時に渡してやれば良い。
そう思っていたのだが。

今日は朝から近所にある小さな店のペンキ塗りをしていて。
危ないからと兄ちゃんだけが屋根の修理に勤めていた。
二人でペンキを塗りながらポツポツと話をしている。
途中、邪魔になったので後ろ髪を縛ればなるほどと兄ちゃんは前髪を縛り、三郎まで真似し始めた。
三郎は間抜け面だと思う。



「彼女他のやつに取られても知らないからな」
「うるせぇよ」
「クラス違うんだろ?」
「………」
「童貞は童貞らしく間違いながら突っ込めよ」
「下ネタに聞こえるからやめろ」



俺の言った意味がわかったのか「う、煩い!」と顔を赤くして刷毛を持ったまま俺を殴ろうとした。
危うく顔につけられるところだった。
そこから始まった喧嘩の声を兄ちゃんが聞き付けてまた怒られる。
別々の箇所をやってこいと言われたが、再びどちらが移動するかでもめた。

最初の内はお前があっちに行け、お前こそ、と言い合いをしていた。
しかしどうやら移動先には兄ちゃんがいるようで、「ついでに手伝ってくれ〜」と声が聞こえてきたのでもう必死だ。



「煩い!僕が一兄の方にいく!」
「はぁ?!俺がいくからお前はここで大人しくしてろよ!」
「さっき僕に行けって言ったのは二郎じゃないか!!」
「お前だって俺にあっちに行けって言ってただろ?!」
「お前が先に言った!!」
「いいやお前だ!!」
「どっちでもいいから喧嘩すんなって何回言わせれば気が済むんだお前ら!!」
「あでっ」
「いてっ」



両腕を同時に振り下ろされて思わず肩を竦める。
兄ちゃんは可愛く拳骨をしている訳ではない、普通に痛いしなんなら暫く痛い。

痛む場所を押さえれば「じゃんけんでも何でもいいから早く来てくれ」と言ってしまった。
俺はグーを、三郎はパーを出して俺の負け。
押し黙っていると、「感情に素直かよ」と鼻で笑われた。
そういう心理戦はずるいと思う。



「ちぇ」



刷毛をペンキに浸けて、それからまた塗って、浸けて、塗って。
まだ塗る範囲の多く残っているこの場所は路地裏で、誰も見ていないのを良いことに塗る前の場所に落書きをして、それから塗りつぶしていく。

…名字、今日何してんのかな。

そんな事考えてたら思わず彼女の名前を書いてしまい、慌ててそれを上から塗りつぶす。
誰も見ていないだろうかと辺りを見渡すも、路地裏側な為誰もいない。
深くため息をついてから残りの箇所をもう一度見渡し、気合いを入れ直して刷毛を握った。
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