ヒプノシスマイク/中編・長編

□ヒロインな俺のヒーロー 2
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ジリジリといううるさい目覚まし時計の音で目が覚める。
大きく伸びをしてから布団を抜け出し、朝の支度を始める。

昨日あった出来事を何となしに思い出していた。
そういえばあの子、名前なんなんだろう、と昨晩名前を知らないことに気がついた。
ぼやーっとしていたから何度も何度も三郎に「人の話を聞け!!」と悪態をつかれていた気がする。

知らねぇけど。

今日もあくびを噛みながらだらだらと学校へと向かう。
ポケットにつっこんでいた手の甲を見れば少し傷が裂けて血が滲んでいた。

昨日の喧嘩は人助けのためにしたものだった、別に喧嘩がしたかった訳ではない。
たまたまだ、たまたま殴り合い───いや、一方的に殴る形になっただけだ。
ふと顔をあげれば昨日の女の子が前を歩いていて。
どうやら一人でいるようだった。



「よっ」
「?あ、おはよう」
「っはよ」



少し俺よりも下から返事が帰ってくる。
俺と目線が合ったかと思うと直ぐに下へと移動し、直ぐに視線はそらされてしまった。
それに一気に体温が下がる。

何だかんだ言って俺は“問題児”だし、彼女はきっと俺とは違って真面目だろうし。
俺みたいなのと関わってると何かを言われるのかもしれない。
ましてや昨日の暴力を最初から最後まで見せたわけだ。

…話しかけなきゃよかった。

そんなことが頭を過り、一気に冷えた指先をポケットにしまって彼女を追い越し、学校へと向かおうとした。
しかしそれは彼女の手によって遮られる。



「は、」
「やっぱり」
「?」
「もう!手!隠してももう見えました!」
「は?て?…手?」
「手だよ!血!出てた!」
「え、あ、いや…は?」
「は?じゃない!もう!」



ポケットに入れた方の手をひっ掴み、外に出したかと思いきや再び傷の辺りを撫でる。
勿論傷口に触れているわけではないが。

「消毒した?!」と怒る彼女は昨日出会ったばかりとは思えないくらいの心配をしてくれていた。
自分が原因で俺が怪我をしているからだろうか、なんて。
…いや、そうじゃない、多分彼女は純粋に、普通に心配をしてくれている。



「もう…大丈夫なの?」
「別に何てことねぇよ」
「あのねぇ、」
「もうもう言ってっと牛になるぞ〜」
「ぅわっ」



ベシッと頭を叩いて歩き出せば彼女はよろめいてから俺の横へと来た。
…何だよ、目をそらしたんじゃなくて傷の確認をしてくれてたのかよ。
それが妙に嬉しくて、少しだけ、ほんの少しだけ何だか心が浮わついた気がした。

そこから他愛の無い話をしている内に学校へと着き、下駄箱で一旦別れるとまた二人で階段を上がっていく。
その道中で絆創膏の入った箱を鞄にねじ込もうと彼女が奮闘し始めた時だった。




「名前ー」
「?」
「?…あ、おはよ」
「おは…あ、ごめんまたあとで良いや」
「?いいよ今でも。何?」
「や、でも…」
「………」
「………」
「?何?」
「あ、…んと、えっと…」
「…俺行くわ」
「え?あ、山田くん!怪我したとこちゃんとしとかなきゃダメだよ!」
「あいよー」



そう言ってヒラヒラと手を振って先を行く。
後ろなんて振り返らない。
…確かに怖いわな、俺が横にいたら。
めんどくせぇなと思いながらも名前がわかり、「いや名字は何だよ」と頭の中でつっこむ。

鞄の中にねじ込まれた絆創膏は少し箱がよれてしまっていて、無理矢理鞄に突っ込むからだよと思わず笑ってしまう。
それをまた鞄にしまって朝のHRを適当に聞き流す。

一時間目は現国だったか、と鞄をあさって気がつく。
昨日ダチに数学の教科書を貸したままだった。
とりあえず一時間目はそのまま過ごし、休み時間になって直ぐにそいつの教室へと向かうことにした。

隣の教室へと行けばそいつは何と今日は休みで。
たまたま声をかけたヤツはろくに話したことの無いやつだった。
貸せよとは言えず、どうしたもんかと頭をかく。
別に教科書くらい無くたってどうせ授業なんてろくに聞かないしどうだって良いのだが、如何せん数学教師が面倒なやつだ。

授業は中止だ、何て言われようものなら他のクラスメイトに迷惑がかかる。
かといって横の席のやつに見せてもらうにしても、多分怯えられるし、例えそれが初めだけだとしても面倒だ。
他のクラスを当たろうとだらだら歩けば彼女を見つけた。
どうやら2つ隣の教室らしい。

通っている最中、「誰か名字くらい呼べよ」と思ったがそんな短時間で呼ぶ訳がなく。
結局もう1つ隣の教室のダチから理由を話して教科書を借りたのだが、後から貸したダチから「ロッカーに入れっぱ!持ってって!」と連絡が来たのだった。
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