黒バス/長編/今吉 U

□第42話
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朝目が覚めると昼だった。
昔友人が作文にそう書いて皆で笑った覚えがある。
今まさにその状況だ。

時計の短針は9を指している。
9時は朝なのだろうか、昼なのだろうか。

重たい体を持ち上げ、ベッドから這い出る。
机の上にある体温計を脇に挟んで携帯を開いた。



from若松孝輔

来週土曜日 7時から打ち上げしましょう!

場所は何時もの焼肉屋で!!



「…焼肉」



ピピピッと音がなって体温計を出すと、熱は下がっていた。

のそのそと起き上がりリビングで遅めの朝食を済ませてから、私服に着替えて家を出た。
駅前に1時集合なので今から他の用事の為に家を出たって十分間に合う時間だろう。

ふらふらと辿り着いた場所は美容院。
今日は髪を切りに来た。



「いらっしゃいませ」
「こんにちは」



メガネをメガネケースに入れ、それを鞄に入れて鞄を受付に預けて椅子に座る。
気が付けば鎖骨まで切った髪は鎖骨よりも下まで伸びていた。

「今日は前回と同じくらいに?」っと髪を撫でられながら笑顔で聞かれた。
一応付け加えると、美容師さんは女性だ。



「いえ!肩より少し上で!」
「…いいんですか?」
「何かリセットしたくて」
「…そうなんですか」



リセットだけじゃない。
スタートし直すんだ。

髪を洗ってもらいながらそんなことを考えていた。

誠凛に負けたのはつい昨日の話。
だから次からの練習に気合いを入れ直して、次こそは勝ちたい。

それともう一つ。

先輩に部活で会えなくなる日々が始まる。
くよくよしたって仕方がないし、そんな日々が始まるだけだ。
部活で会えなくなる日々が始まるだけなのだから、廊下で偶然出会って会話をする日々に変えたらいい。
変えれたらいい、な。

だから何か変えたくて、結局髪を切ることにした。

ハサミが入る度に心が軽くなる気がし、そしてウキウキする。
美容師さんは髪を少しワックスでいじって可愛くしてくれた。



「これ、どうやるんですか?」
「簡単ですよ?」



そこから簡単なヘアアレンジを幾つか教えてもらい、美容院を出た。

集合時刻まで時間を潰すつもりでいたので昼も店で食べるつもりだ。

雑貨屋や服屋、いろいろな店を回ってからパン屋に入って適当に買ってカウンターについた。
外を歩く人々も見えるが、ガラスに映る自分も見える。



「だいぶ切ったなぁ…」



髪の先を摘まんでガラスを見て苦笑い。
自分を見詰めても気持ち悪いだけだ。
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