頂き物・捧げ物

□可愛い犬が
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それは何の前触れもなくやってくる。
雨が降っていようが降ってなかろうが。
暑かろうが寒かろうが。
…何の前触れもなくやってくる。

ドタドタと走る音がしたかと思えば体に走る衝撃。
後ろからデカい黄色の犬に突進された。



「名前っちー!!」
「ぐふっ」
「っはよっス!」
「おはよ…普通に挨拶できないの!?」
「えー?」



何だこのキラキラな笑顔は。
モデルなだけあって顔は綺麗だしスタイルもいいし。
バスケしてるから筋肉質だし。
そりゃあオモテになられるわけですね。

またニッコリと笑顔をかます。
このスマイルで何十人、いや何百人を落とすのか。



「営業スマイルかましてる暇があったら苦しいから離れてくださいますか黄瀬くん」
「ひどっ」
「ちょ、力を強めるな!!」
「名前っちー!」
「離れてー!」
「嫌っス!!」



そう言いながらまた抱き締める力を強くする黄瀬。
「そう言えば昨日ー」と楽しそうに話し出すのを「はいはい」と適当にあしらう。

心の中じゃ穏やかに何てしていられなくて。
心臓バクバクしてんのバレてないかな?とか。
顔赤くなってない?とか。

そのスマイルにまんまと落ちてる私もバカだなぁ…。



「聞いてるっスか?」
「うわぁ!!顔近い離れろバカ!」
「いでっ」
「う、後ろから顔覗きこまないでよ!!」
「ちぇっ。っあ!!」



するりと腕から抜けて距離を取る。
そうすればしゅんとして。
垂れた犬の耳が見えそうな気がした。
仕方がないので横を歩いてやればすぐさまもと戻って話し始める。

昨日仕事がどうしたとか、先輩が蹴るだとか、先輩が殴るだとか、先輩にシバかれるとか。



「あんたどんだけ先輩に失礼してるの」
「何もしてないっス!!」



「だって笠松先輩がァ…」と涙目になりながら泣く真似何かし始めて。
よーしよしと頭をワシャワシャかき混ぜてやればもう機嫌が治ってしまった。

だけど横を歩いていられるのなんかほんの数分で。



「黄瀬くんおはよー!」
「あ、黄瀬くぅん」
「黄瀬くんあのね!」



そんな風に朝から周りの女子に声をかけられまくる。
気付けばもう黄瀬は遠くて。
ただ後ろから呆然と後ろ姿を眺める。

あんなに人気のあるバカに何で恋しちゃってるんだろう。



「…バーカ」



そんな言葉も虚しく空気に溶けてただ黒い嫉妬の感情だけが心の中をぐるぐる渦巻いていた。

黄瀬をほうって自分のクラスに足を進めた。
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