黒バス/続編/今吉

□第4話
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名前は部屋に入るなり部屋のすみで膝を抱えていた。
ワシはワシでその後ろで胡座をかいて麦茶を飲んどる。
さっきから何度か声をかけてみるものの、何でかは知らんけどこっちを向かんといじけとる。

いや、何となく理由はわかってるんやけども。



「何をそんなにさっきっから落ち込んでんねん」
「…落ち込んでません」
「せやったらどないしてん、ワシ暇なんやけど」
「…本棚にあるやつ何か読んでてください」
「済んだことやろ」



けらけら笑ってやればやっとこっちを向いて。
のそのそ机を挟んでワシの向かいにすわり、麦茶をちびちび飲み始めた。

表情はもちろんブスくれたままで、眉間にシワを寄せてコップの中の氷にメンチ切っとる。
…こういうとこほんまに青峰に似てる思うわ。



「機嫌直し」
「…だって、」
「?」
「お母さんが!!」
「ええやん、嬉しいんちゃうの?娘がこんなできた彼氏連れてきて」
「…自分で言います?」
「冗談やん」



あの後名前の母親と話をして、沢山名前の事を聞いた。
連れてくる男の子は青峰しかおらず、心配していたこと。
口を開けば部活や部員の話ばかりなこと。
浮わついた話の1つも出てこないこと。

…っとまあ、名前にとってはあんまり話してほしくなかった話らしく。
ワシが名前の母親と話しとる時、名前は着替えに行っとって。
帰ってくるなり真っ赤な顔して「聞こえてたんだけど!!やめて!!」と叫んでリビングへと入ってきた。



「お前そのままやったらワシ何しに来たかわからへんやん」
「…すみません」
「何か読んでよかなあ、そこの写真がいっぱい挟まっとるやつ」
「…本じゃなくてアルバムじゃないですかそれ」
「読んどけ言うたやん」
「…勉強するんでみてください」
「アルバムをか?」
「勉強!!」
「そんな怒らんでもええやん」



伸ばしかけた手を元に戻して座り直すと名前は机の上から宿題のプリントとやらを持ってきた。
「これ、」と指先でトントンと最後の問題を指す。
教えてもらうような態度か?それ。

仕方なしに教えてやれば素直に聞いて、理解したんかサラサラと問題を解いていった。
その一問がわかればその応用もさらさらと解き終え、次に持ってきたのは英語。
壊滅的な語彙力と壊滅的な文章力でさっきとはうってかわって手こずっとった。



「ワシが家庭教師したろか?」
「諏佐先輩に言われました、断れよって」
「…なして」
「ろくなことないぞって」
「ろくなことって何やねん」
「教えてほしいか?ん?ん?って鬱陶しいぞって」
「はあ?そんなこと…」
「しません?」
「…する」
「ほら」



シャーペンを握ったままクスクスと笑う。
機嫌が直ってきたんか、さっきからは普通に会話しとった。
解き終えてからは部活の話が殆どで。

若松に対する青峰の態度や、青峰に対する桜井や、桜井と話をする桃井、部員の話をたくさん聞いた。
どれも相変わらずで、少し前までそこにおった事を思いだし、少し寂しなった。



「そしたら大輝がエロ本を…」
「なぁ、」
「?」
「部活。楽しいか?」
「?はい」
「…よかったな、歴史塗り変わって」



一年前の今ごろはきっとこんな顔してへんかった。
部活から帰りたい、先輩は勘弁してくれ、男には近寄りたない。
こんなに笑ってなかったとか、こんなに生き生きしてへんかったとか。

そんなこと考えてたら妙に懐かしくなって、ふと泣いていたあの時を思い出す。
若松と話していたのを目撃して、泣いていたあの日を。
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