黒バス/長編/今吉 T

□第10話
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そろそろタオルが温くなってきた頃、同じクラスの男子に声をかけられた。
その男子は中学が同じだたっから普通に話せる。
慣れだ。



「あれ、名前じゃん。何してんの?」
「休憩ー」
「お前マネだろ」
「暑いから涼んでろって言われた」
「なんだそれ」



横に腰かける。
暫く談笑していれば、男子は自分の部活に戻っていった。
具合もだいぶましになったからタオルを洗い直してよく絞ってたたんだ。

鞄からビニール袋を出してそれにいれて鞄に戻す。
体育館へ戻ればまたさらに暑かった。



「これ5月の暑さじゃないよね」
「あ、お帰り」
「ただいまー」



もうすぐ梅雨の季節だというのにも関わらず体育館ないはとても暑かった。

原澤先生はいつもみたいに涼しい顔で座っている。
ボールが足元に転がってきたのを返したり、さつきと話したりしていれば部活なんてあっという間だ。

カゴを持ってまた容器を洗いにいく。



「ご苦労さん」
「あ、お疲れ様です」
「手伝うたるわ」
「ダメです!今日は私がやります!」
「あかん、やる」
「ダメです!今日はカゴだって持ってもらいました!!」
「あ、桃井が呼んどる」


私の後ろを見て手を振る先輩。
「どないしたん?」とか言うから振り返った。



「はい騙されたー」
「なっ!?」
「はよ洗うで」
「…ずるい」
「何か言うた?」



こっちなんか見向きもせずに洗う。
…嘘ついたこの人。
それでもニコニコしたまま洗う先輩は何を考えてるか本当にわからない。

なんでこの人は私にここまでするんだろうか。
優しいのか何か企んでるのか…わからない。



「警戒しすぎや」
「!?」
「ワシはワシ、“先輩”は“先輩”。せやろ?重ねたらあかんよ」



何の話をしているのかすぐにわかった。
少しだけ困った笑い方をしながら振り替える。

私はどうしたらいいかわからなかったからそのまま俯く。
どうしたらいいのか。
何を言えばいいのか。

…わからない。



「ほら、洗わんと」
「あ、はい」



ハッとなって流しに戻った。
もう半分しか残っていない。
ザブザブと音を出しながらテキパキ洗う先輩と、未だに要領の悪い私。

最悪だ。



「ワシ早いやろ、昔やらされたからやねん」
「?」
「せやから名字もそのうち慣れる。な?」



最後の1つを洗い上げて私に差し出す。
受け取って見上げれば先輩は私の鞄を漁っていた。
…え。



「何してるんですか!?」
「ええもん入れとこう思て…ん?…何ワシのタオルパクってくれとんや」
「ちがっ…!洗って返すんです!!」
「あ、」



鞄を奪い返す。
早く返してもらわないとこの人は絶対にタオル持って帰る。

鞄を抱き締めて先輩を見れば爆笑してた。



「なっ…」
「必死になりすぎや…!」
「と、とにかく洗って返します!!」
「わかったわかった、頼むわ」
「はい!」



濡れた手のまま頭を撫でられる。
それが少しだけ気持ちよかった。
それが冷たい手だったからなのか、先輩だったからなのか、わからない。

大輝と違う手や撫で方。
だけど何だか嬉しくて、少しだけ暖かい気持ちになった。
だいぶ先輩にも慣れたということなのだろうか。



「?どないしたんボーッとして」
「あ、いえ…」
「?まぁええわ」



また先輩は私に背を向けて自分の鞄の場所まで歩いていく。

鞄から手を拭くために自分のタオルを探す。
すると顔を除かせる見覚えのないクッキーが。



「何これ…?…あ」



「ええもん入れとこう思て…」



「先輩!」
「ほななー」
「あれっ!?ちょ、先輩!?」



もうすでに遠くにいる。
遠くから手を振って帰っていく先輩。
走って追いかけようと思ったけど多分突っ返されるだろう。

鞄から出せば紙が貼ってあった。



「先輩字綺麗だな」



“名字

クッキー御馳走様
この間はバームクーヘンですまんなー
気を付けますわ、名字さん♪

今吉”



「…寝惚けてたのまだネタにするきだ…」



音符マークあたりからあのいつも若松先輩に向けるバカにしたような顔が浮かんで見えた。
嫌がらせなのか…。

だけどもらったクッキーは普通に美味しくて。

やっぱりあの先輩はよくわからない。





(さつきおまたせー)
(…クッキー?)
(何かまたもらったー。今吉先輩ってよくわかんないよね、嫌がらせなのか何なのか)
(名前…)
(ん?)
((今吉さん大変そうだなー…))

→あとがき
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