黒バス/長編/今吉 T

□第4話
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4月の夕方は思ってたよりも寒くて、着てる上着の上からでもわかる冷たい風が、私と今吉先輩の間をすり抜ける。
きょそきょそと目を忙しなく動かす私は明らかに先輩の目に変にうつっているだろう。



「あ、あの…」
「?」
「な、何か…しました?…よね私…」
「したな」
「ご、ごめんなさっ…」
「怖がりすぎや」



頭をポンポンとされれ、どうしたらいいのかわからずに先輩を見上げる。
今にも泣きそうな、多分そんな顔してる。
また何か先輩にしてしまったのだろうかと頭を働かせてもわからなくてうつむいた。



「自分、年上苦手なん?」
「へ?」
「桃井に聞いた」
「…さつきのバカタレ」
「まぁまぁ。…でな」
「?」
「無理せんでええから」
「へ?」
「無理、せんでええよ。無理して笑わんと自然にしとき。そんだけ」



見上げればそう言って私の顔を笑顔で見る先輩が。
この間の質問にうまく答えられなかったから気にしてるのだろうか…。

中学の時の話なんてすることじゃないし、先輩は中学の時の“先輩”じゃない。

頭ではわかっていても過るあの恐怖と寂しさが私の脳を支配して狂わせる。



「ほら無理する」
「?…!?」



みょんっと頬を引っ張られた。
上下に頬を引っ張ってから離す。
何が何だかわからなくて痛む頬に手を当てて先輩を見上げた。



「…無理して笑うんやめ」
「………」
「返事は?」
「…はい」
「じゃ、練習しよか」



そう言って戻っていく先輩の背中をボーッと見ていた。
振り替えって「何してん、早よせんと練習始まんで?」と声を掛けてくれた先輩に、はい!と返事をして体育館の中に入ればすでに練習は始まっていて。

さつきにバカタレと告げればごめんと帰ってきて。
さつきのパーカーの袖をキュッと摘まんで練習を見ていた。


先輩はあの“先輩”なんかじゃないのに。
桐皇バスケ部の先輩方はあの“先輩たち”じゃないのに。
年上だといまだに全員身構えて話してしまう。

泣きそうになった私にさつきはドリンクを取ってくるように言ってくれた。


複雑な一日は あっけなく過ぎていく。
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