黒バス/続編/今吉

□第3話
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練習も昔のように普通に進んでいき、そのまま普通に終わる。
終わった後は次の部活が体育館を使う為自主練できんらしく、各自部室へと向かい1年生はコートにモップをかける。
選手たちのデータを纏める桃井とは違い、名前はスクイズボトルを洗いに行っとるんか体育館には居らんかった。

昔よう使てた水道へ行けば案の定そこに居って、1年前とは違う慣れたら手つきでボトルを洗っとる。
ワシに気付かんとそのまま一生懸命洗っとった。



「慣れたなあ」
「?あ、先輩」
「せやから言うたやろ?慣れやでって。もう終わるん?」
「まだあと4本あります」
「ほしたら2本くれ」



昔やったら「い、いいですそんな!!悪いですよ!!」とか慌ててたんやろけど、今では「はい」と差し出される。
そんだけ一年で距離が縮んだかと思うと少しだけ嬉しい。
昔は蛇口1つ2つ間をあけて洗っとったけど、今はすぐ隣の蛇口をひねった。

春の水道水はまだ冷たく、名前の指先は赤くなっていてとても冷たそうだった。



「お前、指痛くないん?」
「大丈夫です」
「ならええけど?」
「っ…クシュッ」
「寒いんか」
「冷たいです」



そう言って2本を洗い上げてからハンカチで手を拭いてかごを2つ持ち上げたので、ワシが1つもらって片付けに向かった。
片付けた後は体育館へ用事があると言ってそちらへと行ってしまった。
ワシは部室で着替えをする。

久しぶりの部室は少しきれいで、あの運動部独特の匂いもせんかった。
聞けば名前と桃井と桜井が3月の終わりに片付けてくれたんだとか。
ロッカーの上にきっちりと置かれているのは、元テニスプレイヤーがノリノリにCMで踊ったり何だりしとるあの置き方の消臭剤やった。
桜井が入れ換えたりしとるらしい。

体育館へと迎えに行けば、そこには桃井と名前、原澤監督の三人が居った。
体育館横で座って待っとると先に監督が出てきた。
その後に桃井が出てきて、名前は一向に出てこない。
中を覗くと準備室からガタガタと音がして、それから出てきた。



「何してたん?」
「ああ、ビブスが一枚足りないって騒いでたんで。見つかりましたけど」
「そ?ほな帰ろか?」



ズボンのポケットから自転車の鍵を出して名前から鞄を引ったくった。
こうでもせんとワシに任せたりはせんからで、案の定鞄をワシが持つ事に対してむくれている。
自転車に鍵をさして鞄をかごに入れて自転車を引き、校門を出て信号を待つ。

名前は返事や相槌以外は黙ってワシの話を聞いとる。
しばらく住宅街を歩いていてふっと思い出したことがあった。



「お前そういえば昨日の課題だけなん?」
「数学がちょこっとだけ」
「それは大丈夫なん?」
「今日一時間やれば直ぐですよ」
「…そうか」
「?…あ、じゃあ家来ます?」
「… は?」
「え?ちがうんですか?」
「…お前案外怖いな」



もう少し一緒に居りたいと思てたんがわかってたんかそんな提案をしてきた。
別になんもやましい気持ちなんか無いが、やはり少しだけ考えてしまう。

「いきなりはまずいやろ」と少しだけ遠慮しつつ顔を見ると、けろっとした顔で恐ろしい事を口走った。



「あぁ、大丈夫ですよ。親居ないんで」
「…怖」
「え?」
「お前なぁ…もう少し危機感とか持たんの?ワシ心配やわ。…諏佐が家あげてくれ言うたらどないすんの」
「…あー、そういう…」



考えてもいなかったのか微妙な顔して視線を宙に舞わして考え始めたのだが…。
んなもん断るの一択違うんか。

横でため息をつくと慌てて「違います!」とワシに両手を振りながら顔赤くしてこちらを向いた。



「や、あの…諏佐先輩のこと考えてたんじゃなくて…」
「何や」
「せ、先輩、そういうの気にするんだなー、と」
「…は?」
「何か、なるようになるわ!って感じに見えたんで」
「なるようになったらとっくに襲っとるわアホ」
「いでっ」



手のひらでパチンと額を叩いてやると何すんねんという意味で背中に平手打ちが帰ってきた。

…なりふり構わずなるようになるんわ!性格やったらWC前に我慢せんとあのままどうにかなっとったわ。
そんなことを思いながら舌打ちして、それからあることを思い出した。

そうこうしとると家についてしまい、結局ワシはどうしようかと頭を悩ませとる。
まあ今までワシん家来ても何もなかったから大丈夫やろ、そう思ってお邪魔させてもらおう思って声をかけようと名前の方を向くと、険しい顔をしとった。



「…ん?」
「?」
「何故だ、何故あの車がこちらへ向かっている」
「…何キャラやねんお前」
「帰ってきました」
「は?」
「…お母さん」
「え、ホンマに?」



とてつもなく険しい顔で向こうから走ってくる車をジーッと見とる名前に合わせてそちらを向く。
どうやら出掛けていたはずの名前のオカンが帰ってきたらしい。

いきなりの事で横におるこいつは固まったままで、何や緊張が移るってこういうこと言うんやろなあと考えとった。

ついに家の前まで来て車を車庫に止めようと一旦停車している。
初めて見る名前の母親の顔は、車のガラスが太陽の光を反射しとってよく見えん。
取り合えず頭を下げると向こうも頭を下げた。

さて、これからどないしよ。
それより何より問題が発生した。




(…あかん、ワシ手ぶらやわ)
(いや、そんなの構わないですよ)
(…何をそんなに固まったままでおるん)
(翔一さんのことまだ話してなくて…)
(…はよ話さへんからこういうことになるんやろ!)
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