連載
□天変地異1
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ここ最近での一番大きな絶叫が、普通の一般家庭での男鹿家で響いた。
男鹿家長男とその妻子は耳をおさえた。
男鹿家の他の家族がそれぞれ用事で居なかったことが幸いだった。
「はあああ!?聞いてないんですけど!!」
「言ってねーもん」
「うむ」
耳鳴りから開放された夫婦に、絶叫をあげた・・・ヨルダは歯をかみ締めた。
「信じられない・・・・ヒルダ、こんな男のどこがいいのよ!!」
ビシィッっと男鹿を指差し、ヒルダに問う。
しかしヒルダは男鹿をちらりと見たあと頬を赤らめ、いよいよヨルダは眩暈がした。
「お前、本当に失礼だな」
「うるさいわね!ヒルダが・・・私のヒルダが・・・!!」
「お前のじゃねーだろ!」
男鹿がツッコミをいれるが、ヨルダは聞いちゃいなかった。
そして今さっき聞かされた事実に信じられない気持ちでいっぱいで、思わず叫んだ。
「あんたたちが付き合うだなんて!!」
…そう、ヨルダにとっては天変地異な出来事・・・男鹿とヒルダが付き合うことになったのだ、叫ばずにはいられない。
「別に俺たちの勝手だろ」
「〜〜!!」
男鹿の言葉に何も言い返せない。
正論だ、正論なのだが・・・!
「ヒルダの馬鹿!!」
「ちょ、おい!」
所詮負け犬の遠吠えだ。
だけど言わすにはいられなくて。
「はぁ・・・はっ・・・」
気づいたら走って逃げてた。
自分は次元転送悪魔だから、そんなことする必要なんて無かったのに。
それほどまで動揺していたのか。
しかし・・・
「ここ、どこ・・・?」
無我夢中で走ったせいか、全く知らない場所へと来てしまった。
・・・もう一回言うが、自分は次元転送悪魔だ。
今からでも焔王坊ちゃまのところに転送したってよかったのに・・・
「彼女、ヒマ?」
・・・もたついたせいで絡まれてしまった。
あっちは男4人で、全員ニヤついた顔で寒気がした。
しかもジリジリと距離をつめ、逃げ道をふさがれる。
まあ、こいつらをやるのなんて簡単だし。
私も色々溜まってるし。
いっそやっちゃいましょうか・・・
「お前こんなとこで何してんだよ!」
「男鹿?」
ジリ、と構えた時、後ろから聞き覚えのある声がした。
振り向けば、肩で息する男鹿の姿。
「おいてめーら、この女に何の用だ」
「え?君この子の彼氏かなにか?」
まさかね、と男たちは笑い、男鹿を取り囲む。
「今この子と大事な話をしてるんだ・・・どか行ってくれない?」
「あ?」
そして次の瞬間、男一人が舞った。
「そいつ、困ってるだろ」
簡潔に、いっそ清々しい程にのたまった男鹿。呆気にとられていたが、なんだか笑えてきて吹き出してしまった。
つられて男鹿も笑う。
「やべえよこいつら」
なんか失礼な言葉が聞こえ、笑い声はピタリと止んで言葉の元を辿る。
急に振り向いた私たちに恐怖を感じたのか、さっきまでチャラチャラしていた男たちは短い悲鳴を上げて逃げていってしまった。
「・・・あら」
呆気ない最後に思わず声がでた。・・・ま、どうでもいいけど。
それよりも、
「さっきはあり・・・・っ!」
「ん?」
って私何言おうとしたの!?
こいつは私のヒルダを奪った男じゃない!そんな奴に・・・!!
「なんでも無いわよ馬鹿!」
そして私は逃げた。
熱い頬を冷ますかのように。