連載

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・・・はあ。
知らず、大きなため息が出てベル坊が心配そうに顔を覗き込んだ。
心配すんな、と思いをこめてベル坊の頭を抑えれば、嬉しそうに声をあげた。

しかし・・・

「どーすっかなあ・・・」

ばふん、と後ろに倒れこんで、天井を見上げる。
そして思い出すのは、今ここには居ないヒルダの事。
帰った直後におふくろにつかまり、またでかけていってしまった。
まだ帰ってくることは無いだろう。

さっきまで触れられていた腕を眺めた。
あの感触、ぬくもりは忘れられそうになかった。

「けどなあ・・・」

今のあいつは、侍女悪魔で高慢なヒルデガルダ、ではないのだ。
あいつがヒルダではない、とは言い切れもできないのだが。
って・・・

「俺、何考えてんだよ・・・」

あのヒルダが、俺に対して積極的なのは戸惑い、拒絶していたはずなのに。
いつのまにか、あのヒルダもいいんじゃなかろうか、なんて思ってしまう自分も居た。


「ただ今帰ってまいりました」
「うおっ!!」

碧眼の瞳と合えば、思いっきり体が反応してしまった。
ドキドキ脈打つ心臓を抑えながらヒルダをみれば、にっこりとほほ笑まれた。

「どうされたのですか?」
「い、いや・・・」

こいつは記憶を失って、勝手に俺を夫だとすり込まれて好きになった、というヒルダだ。
いつもの、本来のヒルダではない。

なのに、この気持ちはなんだ。

「あの、たつみさん」
「な、なんだ・・・?」
「私・・・迷惑、ですよね?」

そういうヒルダの瞳は、どんどんくすんでいった。
そうしてるのは・・・俺だ。

「・・・よ」
「え・・・?」
「違ぇっていってるだろ」

確かに最初は戸惑った。
いつも以上に、というか女からの告白も、恋愛感情もこいつが初めてだったから。
なのに・・・

「てめえ“も”好きだ」

目の前にヒルダも、いつものヒルダも、ヒルダに変わりない。
そう気付けば、心が軽くなっていった。

「嬉しい!」
「うわっ!」

いきなり飛びつかれた。
もちろん体勢を整えることができず、後ろに倒れこむのだった。

「たつみさん・・・」
「っ、ヒルダ・・・」

急に近くなった距離に、ドキリと心臓が鳴った。
ふわりとかおるヒルダの香りに、クラクラする。
そしてヒルダはゆっくりと、目を閉じるのだった。

「・・・・・・」

なるべく優しく、傷つけないように。
触れた頬は柔らかく、それ以上に唇は柔らかく、熱かった。

「ヒルダ・・・」

やばい、これはやばい。
すげえ柔らけぇ。

そして俺はもう一回しようと顔を近づければ。

「・・・死ね、ドブ男が!!」
「うわっ!!!?」

ヒュンッ、と風を切った。
それがヒルダの愛刀としって、冷や汗が垂れた。

「貴様は何してっ・・・!」
「ヒルダ!?」

い、いつの間に戻ったんだ!?もしかして・・・

「ちゅ、ちゅーしたからか?」
「言うな!」
「うわっ!こんなところで振り回すなっ!」
「うるさい!貴様はっ・・・きゃっ!」
「危ねえヒルダ!」

急に視界から消えるヒルダに、ほとんど手を伸ばしていた。
しかしそれに巻き込まれるようにして一緒に倒れこんでしまい、そして・・・

「「・・・!!」」

お互いの目が見開かれ、視線が合った・・・超至近距離で。


やばい、超柔らかい!
本日2度目のキスに酔いしれた。
・・・が、すぐに思い直す。

「わっ、すまん!」

バッと起き上がり、ヒルダとの距離を取った。
さっきのように刀を振り回されたらたまったものではない。

「ヒルダ・・・?」

しかしヒルダは起き上がってこなかった。
少し心配になって近づけば、ゆっくりとヒルダは顔を上げた。

「た、たつみ、さん・・・?」
「なっ!!?」

こ、こいつは・・・

「あ、あの・・・その・・・」

やっぱり記憶失ってらっしゃる!

妙にしおらしいヒルダに、俺はめまいを覚えた。

「も、もう一回、キス、してくれませんか・・・?」

そういわれた途端、俺は顔から煙があがるのだった・・・









というか、チューするたびに入れ替わるとか聞いてねえよ!!












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