連載

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「はい、これ」

ついにきた、この時が。
それは店長が男鹿に渡す茶色い封筒。
これで・・・ヒルダさんへのプレゼントが買えるのだ。

「やったな、ベル坊っ・・・!」
「ダブッ!!」

本当に嬉しそうだ。
ベルちゃんの頭をガシガシと乱暴にかくも、ベルちゃんも嬉しそうだ。
それなのに、私の心は冷めている。


「それと邦枝もありがとな!」
「あ、いや・・・」

学校からコンビニまで行くまでの、少しの距離でさえ隣に歩けた。
慣れない仕事でも、不器用ながらにこなそうとするのを真横で見れた。
仕事が終わった後の、気が抜けた姿をみることができた。

・・・たとえそれが、ヒルダさんのためだったとしても。


「で、いつ買いにいくの?」
「そーだな・・・明日でも買いにいくか?」
「え?」

ちょっと待って、今の言い方は。

「私も行くの?」
「ダメか?」
「いや、ダメじゃないけど・・・」

けど、プレゼントはもう決まってるし、ヒルダさんに悪いんじゃ・・・


「あいつまだ機嫌悪いんだよ」
「ま、まだ仲直りしてないの!?」

う、うそ・・・てっきりもう仲直りしてるのかと・・・!


「で、あいつ驚かせてやるんだ」

いたずらを考えてる、子供っぽい男鹿の表情にドキリとなった。
・・・なんで男鹿の近くに居るのにこんなに切なくなるのだろうか。

「じゃ、明日よろしくな」
「え、ええ・・・」

男鹿は何も考えてないだろう。
買えてプレゼントを渡したら終わり、そう思っているのかもしれない。
笑顔でベルちゃんと話す男鹿を見て、ため息をつきたくなった。




































「いらっしゃいませー」

笑顔な店員に迎えられてきたのは、学校からそこまで遠くない場所にあるキャラグッズショップ。
そして入口には、笑顔?のごはん君。
ああ、ついに来たのね・・・
一歩一歩“あの”コーナーに近づいている。

「あった・・・!」

キラリと光るそれ。
一足先に見つけたそれを見る男鹿の顔は明るい。

「よしっ・・・」

ごくり、とのど仏が鳴った音が聞こえた。

嬉しいんだろうなあ・・・

“これ”を買うために頑張ったものね・・・

「おめでと、男鹿」

ヒルダさんのために頑張った男鹿をほめる言葉を送れば、「ん?」と首を傾げた。

「いや、お前もありがとな」
「え?」
「一緒にバイトしてくれたじゃねえか」

お前も誰かにプレゼントか?
笑顔で聞いてくる男鹿に、心が痛くなった。
私は・・・


「じゃ、とりあえず買うか」
「え、ええ、そうね・・・」

いってらっしゃい、と送り出せば、一層笑顔になる男鹿。
ペアリングの箱を取って、レジに向かっていった。
外で待っとこうかしら。
一息つくために店の外にでた。
雲ひとつない空を見つめれば、少しだけ心が軽くなった気がした。


「・・・今日も一緒か」
「!!?」

い、いつの間に・・・

後ろを振り向けば、制服姿のヒルダさん。
殺気・・・この前より増した殺気を纏って、睨みつけていた。

「・・・まあ、好きにすればいいがな」
「・・・、」

なんとなくその言葉でカチンときた。

「何よ、逃げてるくせに」

それなのにこうして追いかけてここまで来て。
男鹿が近づけば避けて。
男鹿はまだヒルダさんの事をあきらめてないのに。
・・・馬鹿にしてるの?

「・・・そうだな」

・・・あ、結構素直に認めるの?
さっきの威勢はどこへやら、しゅんとなってしまい、ちょっとした罪悪感を感じたが・・・


「あれ、ヒルダ?」
「・・・!」

ヒルダさんがビクリとなった。
そして逃げようと踵を返そうと・・・

「今日は逃がさねえ」

ガシリと掴んだ右手は、ヒルダさんを逃がさなかった。
真剣な瞳に、自分のことでもないのに心臓がドキリと大きく揺れた。

「離せっ・・・!」
「待てって!」

大きな声に、沈黙。
場違いに店内はごはん君のアニメOPが流れてる。
なのに、ドキドキと心臓の音が聞こえ続けている。

「俺・・・ずっと邦枝とバイトしてて」

ああ、ついに言うのね・・・

「これを買いたくてしてたんだけど・・・」

珍しく、男鹿の言葉はたどたどしい。
男鹿は、自分の手元に視線を移す。
つられてヒルダさんの視線もそっちにいった。

「・・・ほら」

ポン、と右手に乗せられたのは、さっき買ったはずのあれ。
ゆっくりと、それに視線を向けた。

「これ、は」
「開ければ分かる」

・・・・・・
ついに渡される“それ”は、今までの男鹿との時間が終わる事を意味していた。


「これは・・・!」

ゆっくりと開けられる箱・・・
取り出せば、キラリと光る“それ”。

「高かったんだからな」
「男鹿っ・・・!」

そこからはスローモーションで。
一歩、とヒルダさんが男鹿に近づけば、男鹿はその体を包むように抱きしめた。
ポンポン、と優しく頭をなでる男鹿の目は、

今までにないくらい優しいものだった。



「・・・・」

逃げてたのは私、かもしれないわね。
こんな結末、最初から分かってたはずなのに。

走馬灯に流れる男鹿との時間は、とても甘美なものだった。


そしてこの空間は、私にとって残酷で。
そっと、その場を後にするのだった・・・。














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