連載

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4、下校

あの時触れられた頬に手を当てた。
自分とは違う、少し硬い掌。
辰巳さんのぬくもりが、じんわり伝わってきていた。
しかも目が合ってしまい、思わず目を瞑ってしまった。
いきなりやりすぎたかな、と思った。
けど、確かに感じたのだ・・・近くなる距離を。

「おい、帰るぞ」
「あ、はい!」

当たり前のように呼んでくれる・・それがとても嬉しかった。





































「・・・・」
「・・・・・・・」

沈黙。ただ、並んで歩いていた。
正直気まずい。今までどんな会話をしていたかしら。
チラリと辰巳さんをみれば、じーっとこちらをみていた。
当たり前だが・・・視線が合った。

「あっ・・・」

かぁっ、と顔に熱が集まった。
私を・・・見ていた?

「あ、あの・・・」

意を決して口をひらけば、辰巳さんは居心地悪そうに視線を外す。
その距離に心がチクリと痛くなったが。

でも、アタックするって決めたじゃない。

「う、腕を組んでもいいですか・・・?」

我ながら、夫に対して他人行儀だと思った。
しかしそうでもしないと、この沈黙に耐え切れそうになかった。

「っ・・・」

ピクリと辰巳さんの肩が動いた。
その顔は・・・赤い。

意を決して腕をのばせば、意外と簡単に触れることができた。
辰巳さんのぬくもりに、心が温かくなった。

「私・・・幸せです」

腕に頭を寄せれば、もっと温かくなった。
そして思う。
・・・そういえば、どうやって私たちは夫婦になったのだろう。
ぎこちない辰巳さんと、思い出せない記憶。
ちぐはぐで、繋げない。
だから、こうして触れ合えて、新鮮だ。

「ありがとうございます」

こんな言葉じゃ表しきれないが、今はこんな言葉しか思いつかない。

「・・・・・・・」
「え?」
「なんでもねえよ」

帰るぞ!と足を進めた。
いきなりの事で驚いたが、なんとか離れずにすんだ。
辰巳さんは腕を振り払うことなく、進んでいく。
それが嬉しくて、一層強く腕を抱きしめるのだった。





耳が赤いですよ、辰巳さん。








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