連載

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「ねえ知ってる?駅前のコンビニの話。」
「あぁ、めちゃくちゃ人相の悪い不良がバイトしている話でしょ?」
「行けなくなるじゃない、ねえ」

































「・・・・・・・という話があるのだが。」
「ふーん、そりゃ大変っすねえ」
「君の事だよ、男鹿君!」

バンッっ、と机をたたくのは、先ほどの話の“駅前のコンビニ”の店長だ。
そして目の前にいるのは・・・“人相の悪い不良”こと男鹿辰巳。

・・・また始まった。

はあ、とため息をついたら。

「邦枝さんもため息つかない!」
「は、はい!」

先行きが不安だわ。
けど。

「俺、がんばるっすから」
「じゃあもっと愛想良く!はい笑顔!」
「こ、こうっすか?」
「何その怖い笑顔!」

ニタァ、と不良を通り越して悪魔のような表情な男鹿に、私はなぜか口角を上げた。
男鹿なりに頑張ってる証拠で、それを間近で見れる事が嬉しい。

よし、私も頑張らなくちゃ。




















「ふぅ〜疲れた」
「はい、お疲れ様」
「サンキュー」

ベンチに座る男鹿に、先ほど買ったペットボトルを渡す。
・・・少し触れた男鹿の右手のぬくもりに顔が赤くなりそうだった。

「それにしても一向に慣れる気がしねえな」

バイトを始めて一週間。
お互いバイト自体も初めてで、仕事も初めてだった。
いくら体力には自信があるが、さすがに疲れもたまってくる。
だからいつの間にか、バイトの帰りは公園で一息つくのがコースになっていた。

・・・なんかデートみたいじゃない、これ!?

自覚してしまえば心臓がどきどきしてまともに男鹿の顔がみれない。
・・・良かった、夜で。

「けど、金が貯まるまでの辛抱だ」
「あ・・・」

幸せな気分から一転、下に落ちていくような感覚。
そうだ、このバイトはヒルダさんのため・・・

「よし、がんばるぞベル坊!」
「アイダブッ!」

そうとは知らずガッツポーズをつくる男鹿とベルちゃん。
と、一瞬感じた殺気。

「!?」
「どうした?邦枝」
「い、いえ・・・」

な、何今の感じ・・・けどこれ、どこかで・・・

「ほう、そういう事だったのか」
「ヒルダ!?」
「ヒルダさん!!?」

声がするほうに向けば、いつの間にかヒルダさんが立っていた。
き、気付かなかったけど・・・もしかしてさっきの感覚は、

「どうりで遅かったわけか」
「はあ?何言ってんだ?」
「良い、貴様にはうんざりだ」

月明かりに照らされたヒルダさんは、女の私でも見惚れる程。
しかしまとわりついてる黒い靄に、私は背筋が凍る思いだった。

「貴様と邦枝がどうしようと私には関係ないがな。・・・坊ちゃまに負担はかけるなよ」
「ちょっ、ヒルダっ・・・」

声をかける間もなく、ヒルダさんは消えてしまった。
どうしよう、これはまさか・・・

「・・・?何だったんだ?あいつ」

たぶんヒルダさんは勘違いしてる!
私と男鹿は・・・って、自分で言ってて本当悲しい。

このまま喧嘩別れさせちゃえばいいんじゃない?

悪魔の私が囁いた。

でもただの勘違いなのよ?教えてあげるべきよ

天使の私も反対から囁く。

「ちょっと男鹿!今すぐ追いかけなさいよ!」
「は・・・?」
「いいから!」

首を傾げる男鹿の背を押した。
いまだ状況が分かってない男鹿だったが、私の気迫に押されて、ヒルダさんのもとに行ってしまった。

「・・・いいのかのう、葵ちゃん」
「・・・いつからいたのよ、コマちゃん」

ぬ、と出てきたコマちゃんだったが、まあ、いつものことなのでそこまで驚きはしないが。

「いいの!」

だって本当はなんにもないのに、ただ一緒にバイトして、しかもヒルダさんのためにバイトして・・・

「あ、あれ・・・?」

どうしよう、止まらない。
なんで、涙が止まらないの?

「葵ちゃん・・・今は泣いていいんやで・・・?」
「ありがとう、コマちゃんっ・・・!」


その日、私は久しぶりに泣いた。




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