連載

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2、登校
私は幸せ者だ。
自分がいて、自分の赤ん坊がいて、

愛する旦那さまがいて。

なのに・・・


「はあ・・・」


どこかよそよそしい旦那様、辰巳さん。
私と辰巳さんは夫婦なのに、辰巳さんは私から距離をおきたがる。
近づけば、遠ざかられ。
また近づけば、それ以上に遠ざかられ。

「辰巳さん・・・」

目元が少し熱くなった。

「おい、学校行くぞ」
「あ、はい」

気付けば、学校に行く時間だった。
目元をゴシゴシとこすっていく。
心配かけさせてはいけない。
そう思って笑顔を作ったのに。

「お前・・・」
「なんですか?」
「・・・あんま、無理すんなよ」

ドキン、と胸が高鳴った。
ああ、やっぱり辰巳さんは優しい。

「ありがとうございます!」
「ちょっ、あんまべたべたすんな」

嬉しくて右腕に抱き着けば、辰巳さんのぬくもり。
なのに慌てて引き抜けられてしまった。
むぅ・・・



「んじゃ行こうぜ」

ベルちゃんを頭の上に乗せ、進んでいく辰巳さん。
その後ろ姿は、とても広くて思わず飛びつきたくなった。
しかし先ほどの拒絶もあるし、ベルちゃんが落ちてしまう可能性もある。
すごく近い所に辰巳さんはいるのに、手を伸ばせないもどかしさ。
辰巳さんはすっかり先ほどのことを忘れたのか、ベルちゃんと鼻歌?を歌いながら進んでいく。

「あのっ、辰巳さんっ・・・!」

振り絞った声は、案外大きくて。
不審がる辰巳さんが振り返り、私は意を決して口を開けた。

「か、賭けをしません、か?」
「賭け?」

それは私にとって、一か八かの大きな賭けだった。

「わ、私が辰巳さんにとってご迷惑な存在なのはわかってます」

自分で言って悲しいけど・・・

「だけど、私辰巳さんのことが・・・だから・・・」

うぅ、自分で言ってて恥ずかしい。けど、私は・・・

「今日一日で辰巳さんが私の事を好きになってくれたら・・・ひとつ、お願い事を聞いてもらっていいですか・・・?」
「へ・・・?」

い、言えた・・・
う、辰巳さんのほうを見るのが辛い。

ちらり、と見れば、辰巳さんは口を開けたまま固まっていて、ベルちゃんがほっぺをたたいていた。
それにやっと反応し、辰巳さんと目があった。

「え、ちょ、それって・・・」

もう、ヤケだわ!

「私、辰巳さんに好きになってもらうようアタックしますね!」

だから覚悟してください!といえば、辰巳さんの顔がみるみるうちに真っ赤になった。



・・・でも、何すればいいんでしょう・・・?







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