連載

□キャパオーバー1
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1、起床
ヒルダがおかしい。
いや、語弊があった。

今、ヒルダは“侍女悪魔”だった記憶がないのだ。
・・・にしても、ここまで記憶が変わるものなのか?



「・・・み・・ん」
「・・ん・・」
「た・・・・さん」
「ん・・・」
「たつみさん!!」
「・・・え?」


目を開ければ、ヒルダの瞳と目があった。

「っ!!?」
「やっと起きましたね」

こっちの心なんて知ってか知らずか、どことなく嬉しそうなヒルダ。
こっちはうるさい心臓を止めるのに必死だってのに。
酸素を求める魚のように口をパクパクさせるが、うまく頭が回らず。
再び目が合えば、微笑まれた。


「おはようございます」
「お、おう・・・」

なんとか絞り出してこの返事とか俺情けなっ!
しかしヒルダはそれに満足したのか、まるでベル坊に向ける表情を浮かべ、鼻歌を歌いながらベル坊と一緒に1階に降りるのだった。

「ヒルダのやつ・・」

案外かわいいところが・・・と言いかけて、バっと口をふさいだ。
おれ、何言おうとした!?
確かに今は記憶を失っているが、あのドSでベル坊主義なヒルダだぞ!?


「たつみさん?」
「ん!?・・・あ、ああ」


今行く、よ。なんてしどろもどろに言う俺は、やっぱり情けない。
が、ヒルダの隣に来れば一層の笑顔を浮かべた。


「・・・!」

左手に温もり。
記憶を失って、ヒルダとの距離が縮まった、と思う。
それは心が、とかじゃなくて、目に見えるものとして。

あー、情けねえ

ヒルダのやることにいちいち照れてしまう自分。
もともとこういう経験がないってのもあるが、それでも心臓がバクバクいって表情が固まってるのが自分でも分かった。
・・・要は対処に困っているのだ。
周りに聞こうにもそういった経験した奴なんていなさそうだし・・・と思っていると、ちょいちょいと腕を引かれた。

「あの、たつみさん」
「ん?」
「ちょっとかがんでくれませんか?」
「・・・?」


ヒルダのお願いに首をかしげつつも、言われた通りに膝を曲げると。

「っ!?」
「そういえば、まだ“おはようのキス”をしていなかったから・・・」
「なっ・・・!」

え、なにこれほっぺたにやわらかいものがあたたっよぬくもりもあったよえやばいこれはおれ・・・

「きゃー!たつみさん!?」

最後にみたのは、顔を歪ませ悲鳴を上げるヒルダと、いつもは見ない天井だった・・・






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