小説

□月の女
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“男鹿”という存在を知った時、既に彼の隣には“ヒルダさん”は居た。
ヒルダさんは学校じゃ“オガヨメ”なんて呼ばれてて。
だけど二人はそんな甘い雰囲気でも無くて。
むしろ殺伐としてて。
……それにどこか安心してたのかもしれない。



だけど、男鹿の気持ちに気付いた時、既に遅かった。








あ、まただ……


彼と修行するようになって何日か経った。
毎日身体はクタクタで。
また明日も忙しいのね…と部屋に戻っている時、いつもその場所に男鹿は居た。


縁側の、夜空を綺麗に眺められる位置に、寝ているベルちゃんを背中に乗せた男鹿は月を見上げ呆けていた。

……


ここまでなら気にも止めなかっただろう。
しかし、よく見ると男鹿の口元は微かに動いていて。
顔も微かに歪ませて。
…そんな表情、見たことない。

一度、確かめたことがある。呆けた男鹿にこっそり近づいて、聞いてみた。


「ヒルダ……」


すぐに後悔した。
聞かなきゃ良かった、と。
何だかんだ言って男鹿は……


「ん?どーした邦枝」
「へ!?あ、あぁ…」


まさか盗み聞きしてました、なんて言えない。
適当に「さ、散歩!」なんて言えば、「そっか」と納得されて会話が終了した。

気まずい……


「あのさ、邦枝…」
「えっ!?あ、あぁ、何かしら!?」
「絶対……ヒルダを取り戻すぞ」
「……」


…私はとんだピエロだ。
男鹿はヒルダさんの事しか考えてないのに。


「…邦枝?」
「えぇ、分かってる…」


男鹿に想われてるなんて、と羨望の眼差しで月を見上げるのだった………














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