小説

□自由券
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「……なにこれ」


夕食後ベル坊を膝に乗せてゲームをしていた時のこと。
いきなり部屋に入ってきたヒルダに、白い封筒をつき出された。


「その、なんだ…」
「とりあえず座れよ」


言い淀み立ちつくすヒルダを座らせ、白い封筒を彼女の手から抜き取ると、ヒルダは顔を赤らめ俯いた。


「……?」
「……自由にしてくれ」


言ってる意味が分からないが、とりあえず封筒の中を見てみる。


『自由券』


……ただそれだけ。
白い紙に、その3文字が書かれていた。

本日二回目の「…なにこれ」を言うと、ヒルダは渋々と言った様子で話し始めた。


「今日は…貴様の誕生日、だろ?」
「あー…」


すっかり忘れてた。


「それで姉上様に相談したら……」
「相談したら?」
「“辰巳の好きにさせなさい”と、この封筒を…」
「俺の好きに?」
「あとは、…これを読んでくれ」


そう言って新たに出された一枚の紙。

……読んで後悔した。


『誕生日おめでと
どう?私からのプレゼント
その“自由券”があればヒルダちゃんを好きにできるのよ?
……もちろん“夫婦の営み”も、ね
あんたたち、こうでもしないと進展しないんだから


ま、頑張って

美咲より』


………はぁ。
姉貴らしさが全面に出てる文章に思わずため息が出た。
ヒルダの様子をみる限り、手紙の内容を知ってるな。


「そういう事、だ…」
「お前はそれでいいわけ?」


……何これ、ふざけんな。


「お前は姉貴に言われた事、全部やるのか?」


いくらなんでも、だろ
こういうのは気持ちの問題であって、他人から言われてやるものでは無い


「それは…」
「違うだろ?」


ヒルダは視線を泳がせ、しかしコクンと頷いた。


「ま、俺もチキンなのかもな」
「何の話だ?」
「いや、こっちの話」


さて、姉貴にはなんて説明するかな…
自由券、かぁ……


「じゃあヒルダ、肩を叩いてくれねぇか?」
「肩?」
「自由券、なんだろ?」
「………!!あ、あぁ」


ヒルダに背を向けると、やんわりと添えられる彼女の手。


「姉貴には俺から言っとくから」




自由券は肩揉み券として使った事。
姉貴は確実に文句を言うだろうが……まぁ、これで俺とヒルダも納得してるからいいよ、な?
肩を揉まれて幸せな気分に浸りながら、そう思う男鹿だった……












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