小説

□ぬくもりに包まれて
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その日はうだるような暑さが続いてついに男鹿家でも今年初のクーラーデビューを飾った日であった。


「あ〜涼し」


中と外じゃ、天国と地獄だった。
その部屋の主である男鹿辰巳は天国を満喫していた………が。


「寒い」
「ちょっ…」


ピッ。
高めの機械音一つによって男鹿の天国が終わった。


「クーラー止めんなよ暑いだろ」
「いくらなんでも下げすぎだ馬鹿者」


ヒルダがリモコンを見せれば、男鹿は言葉を詰まらせる。
そこには『21℃』と表示されていたからである。


「坊っちゃまが寒がっておられる」
「ベル坊寒いか?」
「ダァ…」


確かにベル坊に触れると、クーラーの風に当たったことによる冷たさがあった。


「最低だな貴様」
「んだと?…んなもんこーすりゃ…」


体が冷たくなったベル坊を抱き上げ、腕の中に閉じ込めた。
するとじんわり熱が移ったのか、ベル坊が安心したような穏やかな表情を浮かべて静かな寝息を立て始めた。


「ほらな?」
「む…」


どうだ、とふんぞり返って再びクーラーをつけた男鹿の顔を殴りたくなったが、彼の腕の中で眠る坊っちゃまの幸せな時間を邪魔できずに上がった拳をしぶしぶ下げたのだった。























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