小説

□“あなた”
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『あなた』





それは先日から居候する事になった金髪美女の妻が、居候先の家に住む長男であり彼女の夫(高校生)を呼ぶ時に使われる言葉である。
しかし、それは“家族の前で”だけ使われる。
何故なら妻…ヒルダと夫…辰巳には何も関係は無いからである。

ただ単に都合がいいから。
そう呼べば、いきなり現れた妻とその主が居る理由となるから。

妻は自ら言い出した事だが、本当はヘドが出る程嫌だった。





嫌だった、のに……





























「あっ……」

「?何か言ったか?」

「な、何も無い…」


良いかけて、口をつぐむ。
さっきからそれの繰り返しである。
気付けよこのドブ男。
と言いたいところだが、彼の前では「あ…」だの口ごもってれば気付けるものも気付けないだろう。
むしろ気付けたらエスパーだ。
それでも羞恥心が上回って、それ以上先に進めないのである。













そんな日々が数日過ぎたある日、いつものように口ごもるヒルダの様子に男鹿はイライラしながらただ見ていた。


『言いたい事があるならはっきり言えよ!』


単純思考でできている男鹿の脳内では、複雑な乙女心は理解できないようだ。
ヒルダが口ごもる意味が分からず我慢できなくなった男鹿は、次もコレだったら、絶対問い詰めてやる!と心の中で誓った。

そんな事になってるとは知らないヒルダは、妙にイライラしている男鹿の様子に疑問を感じていたが、主の世話や家事の手伝いで忙しい毎日を送っていた。そのため、男鹿の前で口ごもることは、男鹿が誓いをたてた1週間後の事となった。














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