小説
□悪友の成長
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*古市視点
「うー…ん」
最初、“珍しい”と思った。なんとあの男鹿が教科書と睨めっこしながら頭を抱えていたのだ。……が、覗きこんでみれば、一気に呆れた。持っていたのは求人誌だった。
「お前にバイトは無理だろ」
「なんで分かるんだよ!?」
いやいやいや、お前のその顔じゃ誰も近寄ってこねぇって。しかも、
「お前の背中に乗ってるのは何だ?」
「…………あ」
今更気付いたか。
「赤ん坊OKなバイトなんてあるわけないだろ」
「あるかもしれねーじゃん!?」
「いやいやいや」
さすがに無理あるだろ。
「というか、なんでバイト?」
「べっ…別にアイツのためじゃねぇよ……」
「あぁ、ヒルダさ」
「ちち違ぇよ!!?」
あぁ、なんて分かりやすいんだ、こいつは。
顔を真っ赤にして否定したって、肯定になっちまうんだぜ?……本当、単純な奴。
「ちっ…帰るぞ古市!!」
「はいはい」
図星なのか逃げるように教室から出ていく男鹿。
うわぁ、耳まで真っ赤になってるし。
ここまでなった男鹿も珍しいし、ここは一緒に帰ってやりますか。
数週間後、ヒルダさんの耳に下がる蒼のイヤリングと妙にぎこちない二人の様子に男の悪友は、男の成長を感じずにはいられなかった。