小説

□我慢しないで。
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※主人公の一人称は「僕」で設定しています。

「あんた、ちょっと待ちなさいよ」


疲れた体を休めよう、そう言ったのは、幼馴染で目の前に腕を組んで仁王立ちの少女、マリベルだった。
さあ休もうかな、と思っていた矢先呼び止められ、僕は首を傾げた。

「どうしたの?」
「・・・・・・・」

じぃ、と碧眼の瞳にみつめられて思わずぎょっとなる。
しかしマリベルはそれを気にせず、ふむ、と右手を顎にやった。

「・・・泣きなさいよ」
「は?」

意味を理解するのに時間がかかった、というか理解できそうになかった。
どういう意味なのだろうか?

「あんた、ユバールから帰ってきて無理してるでしょ」

ぎくり、となった。
そして思い出すのは、一つ年上の、キーファ。
彼とはいつも一緒に居た。
王子と漁師の息子。
接点なんて無いはずなのに、僕の中で一番の親友。
そんな彼は・・・今、居ない。
過去の世界の人間になった。

つまり、この世にもう居ないのだ。

「帰ってからもドタバタしててゆっくりできなかったのもあるけど、」

私のミスね、なんてため息ついて。
そんな、マリベルにため息なんて似合わないんだから。

「悲しくないの?」

その言葉は、“素直な”僕になるには十分で。

「っく・・・うぅ・・・」

下を向けば、ポタリと落ちる涙。
それに気づいてしまえば、せきをきったように落ちる涙。

「・・・はい」

にじむ視界をこらせば、四角い小さな桃色。
たどれば、マリベルがハンカチを差し出していた。

「あっ、ありがとっ・・・」

嬉しかった、なのに涙は止まらない。

「まあ・・・今日くらいは胸貸すわよ?」

高くつくけど・・・、と照れたようにいうマリベルに、少しおかしくて笑ってしまった。

「なっ、何よ!」
「いや・・・」

やっぱりマリベルは男前だなあ、なんて言ったら殴られかねないので、ここは秘密だ。
ここは素直に従っておくべきかもしれない。

「じゃあ遠慮なく」

胸を貸す、ということはこういうことだろうか?
ゆっくりとマリベルを抱きしめれば、マリベルの体が硬直したのがわかった。
けれどそのぬくもりは逃げることなく、じんわりと僕を包んだ。
そのぬくもりにじんわり心が温かくなるのを感じながら、目を閉じるのだった。





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