特別な品 2

□叶わない人
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大学を卒業して数年。
仕事も慣れてきて生活にも余裕がでてきた。
そこで俺はありったけの勇気を振り絞って、当時付き合っていたリコに、同棲しようって言ったんだ。
今でもあの、真っ赤な顔は忘れられない。
振り絞ってよかったと、歓喜した瞬間だったんだ。
そこからのリコとの生活は特に問題なく進んだ。
・・・あ、料理はちょっとヤバかったか。
何度死にかけた事か。
それでも今は“なんとか食べれる”レベルなのだから、俺との生活の長さを物語ってるようである。
・・・と、そこは置いておいて。

「ちょっと順平、何拗ねてんのよ」
「拗ねてねえよ」
「それが拗ねてるって言うんじゃない」

そう、別に拗ねてなんかない。
むくれるリコが可愛いなあ、と思えるくらいには余裕がある。
しかし、彼女の腕の中に“居る”奴が視界に入れば、どうしても心の中がモヤモヤしてしまうのだ。

「ねえ、2号?」
「ワンっ」

無邪気に吠える2号が羨まs・・・憎らしい。




























とある晴れたある日。
その日はリコと休みが合ってソファで2人揃ってゴロゴロしていた時だった。
彼女のスマホがメッセージがきたことを告げてみれば、そこには懐かしい青春時代の仲間の名前。
お忙しい所をすみません。
相も変わらず礼儀正しい後輩の言葉で始まった文章は懐かしくて2人で笑いあった。
そこまでは良かった。

『すみません、2号をお願いできますか?』

が、ピシリと固まったのは誰だったか。あ、俺か。
え、2号・・・?
ここに・・・2号?

俺とリコの2人きりの部屋に、2号、が・・・?

ぎぎぎ、とリコの方を見れば、リコは別段気にした様子もなく、むしろ笑みを浮かべている。
たらり、嫌な汗が流れた。

「別にいいんじゃない?」

ね?順平?

確かにこのマンションはペット可だけども。
久しぶりに会える2号に気を良くしたリコは気づかなかったと思うけれど。
そういえば、こいつは自分に矢印が向く感情とかに疎かったっけ、高校の時から。

何も答えない、というか答えれない俺をみて了承したと受け取ったリコが勝手に返信してしまった。
数日後、2号は同じ瞳をした主人に連れられ、俺のマンションへと足を踏み入れることになったのだった。




「さっ2号!今日は何して遊ぼっか」

2号が来て3日目。
昨日は近所を散歩しまくった。
おかげで両足が筋肉痛だ。
やはり運動量が減ったせいか。
だけど、久しぶりにいった誠凛高校は、何故か安心した。

「といってもな・・・」

ペット同伴となると、行ける所も限られてくる。
ううむ、と考えるも、特に思い浮かばず。
もう家でまったり過ごすのもいいんじゃないだろうか。
それに今日の夕方には黒子が2号を迎えにくるし。
ああ、あと数時間・・・
短いようで長かった2号との生活もお別れだ・・・!

「あら、2号と別れるのが寂しいの?」

斜め上な事を言って快活に笑うリコにオイとつっこみつつ、そうかもなと2号の背中を撫でた。
クゥン、と鼻を鳴らす2号は確かにかわいかったのだが。

「で、どうする?」
「うーん・・・」

本当にどうしようか・・・と思っていると、一本の電話。
みれば、2号を預けた、黒子だった。

「黒子君?」
「あぁ・・・いきなりどうしたんだろうな?」

とりあえず電話にでれば、相も変わらず穏やかな声をした後輩がでてきた。

『お疲れさまです、主将』
「あーお疲れ、というかもう主将じゃねーけどな」
『すみません、クセがまだ残ってまして』
「で?どうしたんだ?」
『今家ですか?』

コテン、と首を傾げた黒子が想像できて少し笑えた。
しかし電話口でそうされたら、さすがの黒子も怪しく思ったのだろう。
先輩?と聞いてきた黒子にごめんごめんとお詫びを入れて、話の先を促した。

『今から2号を迎えに行きますけど、いいでしょうか?』
「え?でもあと今日も、」
『ちょっと予定外の事が起こりまして。』

それならば、と了承して、ついに2号は俺たちの家を離れる事になった。
深々とお礼を言われ、お土産を渡された時は少し焦ったが。
でもまあ、これでやっと。

「ちょっと寂しくなるわね」
「・・・そーだな」

ため息をつくリコに、心がモヤモヤした。
まあ、別に?俺は犬にヤキモチやく程心は狭くないですし!?

「順平、安心したでしょ?」
「え?」
「2号に嫉妬してたでしょ」

くっ、やっぱりこいつには勝てない。

「でもね、もしかしたらこれ以上に厄介な存在が出てくるかもしれないわよ?」
「は?」
「3か月ですって」

そう言ってリコは俺の手を取り、リコの腹部へと手を持っていった。
え、それってつまり、

「女の子だといいわね」

親子で争わないでよね、と笑顔でいうリコに、俺は一生叶わないかもしれない。



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