特別な品 2

□気づいた時には既に手遅れ、なんて気づいた時には既に手遅れ
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甘い甘いチョコレート。
それはもう、乙女の心のよう。
・・・そんなの、私のキャラじゃないケド。
周りに便乗して、私も可愛くなれるカナ?






























「これ、食べてほしいアル!!」
「遠慮しまさぁ」


それはもう見事だった。とういうか瞬殺だった。
こいつはバッサリ切り捨てたのだ。
渡すか渡すまいか、目の前に立って渡す動作中のドキドキを返してほしい。
しかしこいつにそんな事を言ったって無駄な事である。
こいつ…沖田総悟はフンと鼻をならし、私にも声をかけずどっか行ってしまった。
残されたのは、ピンクのリボンで装飾されたバレンタインチョコの箱と、膝をついた私。
目の前が真っ暗になって眩暈がする。


「神楽・・・ちゃん・・・?」


はっと気づけば、後ろからおずおずと同級生・・・本郷尚が遠慮がちに声をかけてきた。
その眉は八の字に下がっていて、見られていたんだと気づく。

「・・・笑いたきゃ笑えヨ」

沖田とは甘い関係、とはかなくても、イイ関係とは思っていた。
付き合う、までいかなくても、受け取ってもらえるかと思っていたのに。
浅はかな自分で笑えてくる。なんと恥ずかしい妄想だったか。

「笑わないよ」
「・・・ウソつくなヨ」
「嘘じゃないよ!!むしろ僕は・・・!」

見れば、顔を真っ赤にした尚がいた。
もしかしてこれは、

「そのチョコ・・・ぼ、僕にください!そして僕とっ・・・」

付き合ってください。


「・・・・・・・へ、」


え、今なんて言ったアルか?
聞き間違いじゃ、ない、よナ・・・


「僕なら幸せに出来ると思うから・・・!」

そう言った尚の顔は真剣そのもので。
・・・さっきまで沖田に傾いていたというのに、その心はいともたやすく目の前にいる男に傾いてしまった。

「こちらこそ・・・よろしく、ヨ」

かくして、人生初の彼氏ができるのだった。
もちろん沖田にやるはずだったチョコレートは彼に渡して。























「これ、食べてほしいアル!!」
「遠慮しまさぁ」


間髪入れずに言ってしまった。
こいつとの付き合いはそこまで長くない。
しかし、もう何年も一緒にいるような感覚でこいつと接してきた。
だから特に他意は無かった、はずだ。
どうせすぐに「ふざくんな、食べるヨロシ」と食いついてくるかと思ったのに。

それなのに。




「僕と・・・付き合ってください。」
「こちらこそ・・・よろしく、ヨ」




どうしてだよ。
さっきまで俺にチョコを渡そうとしてたじゃねぇか。
あ、俺が断ったからか。
でもそのチョコはなんだかんだで俺のところに来る、と思っていたのに。

「あー・・・俺のバカ」

やべ、めちゃくちゃ後悔してる。
ゴメンナサイ、めちゃくちゃ欲しかった。
でも今更。
チョコを受け取ってもらえて嬉しそうなチャイナは、いつもと違う、ふんわりと花がさいたような笑みだった。
それがまた、俺のガラスのハートを砕くには十分だったのだが。
































「・・・いつまで意地はってるつもりですか」


気づけば、いつも目で追っていた。
桃色の髪、水色の瞳、白い肌。
ただでさえ目立つ容姿の彼女は、“恋”をして一層可愛くなった。
その相手が自分じゃないことは分かっていた。
彼女と彼は、お似合いだと思う。
いつもケンカしているけれど、それは相手の事を知って、そして信頼している証。
羨ましかった。
そんな人、病気で休みがちな僕には居なかったし。


だから、ぬるま湯の余裕をもつこの男が少し腹立たしかった。
彼女が・・・神楽ちゃんが男・・・沖田さんの所にいつまでも居るって思いこんでいる事が。

「何の話でぃ」
「知ってますよ、僕は」

彼女が誰を見ていたか、すぐ分かった。
僕だって彼女を見ていたから。
そして彼が誰を見ていた事も。


結構わかりやすいですよね、沖田さん。

そういえば、沖田の表情は歪んだ。
まあ、ふだんはポーカーフェイスの沖田さんだ、わかりやすいわけがない。
というか、神楽ちゃんをいつも見てれば、沖田さんも一緒に見てしまうって話なだけだが。
それは言わないでおくが。

「でも残念です。素直になれないって悲しいですね」
「てめっ・・・」

神楽ちゃん同様、目を惹く容姿をした沖田さんは、男の僕がみてもかっこいいと思う。
沖田さんはたくさんの女の子から告白されているのも知っている。
それなのに、沖田さんが好きな人は、今は僕の彼女だ。

「言っときますけど、沖田さんが入る隙間なんてありませんから」

ぬるま湯で満足してる、沖田さんになんて。






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