特別な品 2

□カモフラージュの時間
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「ほら男どもーー!!寂しいバレンタインにとっておきのチョコあげるわよー!」

授業が始まる2分前。
いつもより少し早い私の登場に驚く生徒たち。
しかし手にもっていた袋を机の上に乗せて広げて見せれば、大体の男たちは目を輝かせた。

ふふ、なんて良い先生なのかしら私って。


「でもさ、ビッチ先生って料理できるの?」
「あったり前じゃない!!男を掴むには胃袋からよ女子!!」

傍観を決め込む女子たちにビシッと指さした。
そう、これは女を磨く必要なスキル。
男子にも、女子にも良い先生だなんて、他にいるのかしら?

苦虫をつぶしたような、女子たちの顔。
そしてワラワラとあつまる男子たち。
ああ、こいつらは女性からチョコ貰ってないのかしら。

「あ、もちろん3倍返しだからね!」
「「えー!!」」

中学3年の3倍返しなんて期待はしてないけれど、やったんだから当然でしょ?
なんでだよー、と口をとがらせる男子たちだが、どこか嬉しそうな表情にこっちまで嬉しくなる。

・・・本当、この教室は楽しい。


「おい、何バカな事してるんだ」
「か、カラスマ!?」

振り向けば、いつも以上に眉間に皺を寄せた“もう一人の教師”がいた。

「とりあえず・・・チョコは没収だ!!」
「「えー!!?」」
「後で返すからとりあえず集めてくれ」

・・・あら、意外。
てっきり没収したままにするかと思ったのに。
まあ、こいつらに情があるってことかしら。

しぶしぶカラスマにチョコを渡す男子たち。
しかし後で返してもらるのだから、そこまで残念そうでは無いが。

「というか、お前の授業は次だろ」
「あらいーじゃない。勉強と暗殺漬けな男共にちょっとしたプレゼントよ」
「はぁ・・・」
「ちょっとカラスマ!なんでため息つくのよ!!」

生真面目なこいつのことだから、またバカな事をしていると思っているのかもしれない。
確かに、私でもバカな事をしていると思う。
でもそれが、ある狙いがあったから、なんて口が裂けても言えやしない。

「というかカラスマ!!あんたはチョコいらないの?」

そう、これが狙い。
E組の男子共と一緒に、“本命”であるカラスマにチョコをやってしまおうっていう作戦なのだ。
それなのにこいつは教室に来て早々没収だなんて。
頭が固い奴とは十二分にしっていたが、ここまでとは。

それに、私の“武器”は知り合いには全然効かないのだ。
そうなると、ここは正面からチョコをやったほうがいいのである。

「甘いものはあまり得意では無い」
「っ・・・!!」

ある程度は予想していた。
だからビターにしてみたが、こいつにとってはそれでも甘いかもしれない。

「いつまでも馬鹿な話はしてないで、授業をするぞ」
「「はーい」」

出てけ、なんて言われたら従うしかないわけで。
袋逆戻りしたチョコを見ながら、私は教室を出ていくのだった。




















「・・・・どうしよ」

ため息をついて、さっきの事を思い出す。

これじゃ渡せないじゃない・・・

ああもう、と体を後ろに逸らせば、背もたれがギシリとなる。
そしてすぐに戻る。

なによこれ、カラスマみたいじゃない・・・


何を言っても、“いつも通り”なカラスマ。
まあ、恋愛事に興味深々なカラスマもちょっと引いてしまうが。

でも、少しは気にしてもいいじゃない・・・

手の上にある“ソレ”をみる。
その中には、カラスマへの、“本命”チョコがある。
渡す機会は・・・ある、と思う。
生徒たちの授業はほとんどがあのタコの仕事。
タコの授業の時は私とカラスマ、どちらも時間はある。
しかし今はカラスマの授業。
しかも相手はチョコが苦手な堅物。
相手にとって不足は無い、といいたいが、ちょっと今回は分が悪いかもしれない。

「自分で食べようかな・・・」
「何をだ?」
「ひゃっ!カラスマ!!?」

い、いつの間に・・・!!

カラスマは驚く私をよそに自分のデスクへ。
忘れ物をしたのか、引き出しの中のプリントを出して、さっさと職員室の入口扉へ行った。
無駄の無い動きすぎてぼんやりとそれを見てしまった。

「で、何を食べるんだ?」

振り向きざまに痺れるような低音できかれ、ボンッと顔があつくなるのを感じた。

「べ、別にカラスマには関係ないわよっ!!」
「そうか」

私のバカ!!なんでこんな反応しちゃうのよ!!

「で、俺には無いのか?」
「は?」
「チョコ」

一応俺も男なんだが、と言うカラスマの耳は真っ赤で。

「・・・あるに決まってるでしょ。男を掴むには胃袋から、よ」


さっきまで悩んでいたのがウソのようだった。

「・・・一応礼を言っておく」
「自分からせがんだ癖に」

手の上にあったチョコをカラスマの手に乗せて3倍返しね、と言えば、お前らしい、と微笑んで、また教室へと行くカラスマだった。

「〜〜〜!!バカラスマ!!!」


私はこの男に勝つ日はないのかもしれない。







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