特別な品 2

□見えない心
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「ほぅ、人間界には“バレンタイン”というものがあるのか」

それを聞いたヒルダの瞳は輝いた。
まあ、バレンタインの意味を知ったから当然だろう。
どうせ“坊ちゃま”にやるのに頭がいっぱいになっているのだろう。
ブツブツときこえる言葉のなかに、“坊ちゃま”やら“幼児用”という単語が入っている。
そしてバレンタインの事を教えた邦枝が何か話しかけているが、全く聞いてない。
えーと、なんて固まる邦枝。
あー・・・そうなったらヒルダは何にも聞いてねえよ。
というか、その怪しい笑いはやめろよベル坊すら引いてっぞ。

「はぁ・・・なんと素晴らしい日だバレンタインよ!!」

・・・そんな燃え方してる女子ってのもどうよ?

「おい、男鹿」
「なんだよ」
「眉間に皺、よってるぞ」

まあ気持ちはわからなくもないが・・・とヒルダをみる古市。
それに、無性にイラッとした。
とりあえず殴ればいいのか?いいんだよな?うん、殴ろう。

「なんだよいきなり!!」
「・・・なんかイラついたから」

ひどい!!なんて泣き叫ぶ古市は無視しよう、そうしよう。

「おい、ヒルダ」

と言ってもヒルダは未だ自分の世界。
もう一度強く呼べば、やっとこっちを向いた。
少し不機嫌ではあるが。

「帰るぞ」
「うむ」

ヒルダはさあ帰りましょう、と俺の肩に乗っていたベル坊にマフラーを巻く。
さっきまでの様子とは全然違う。
ベル坊至上主義、それがヒルデガルダ。
そうなんだけど。わかってはいるけども。

はぁ・・・・・・・

知らずに出たため息の正体に気付くまで、まだ時間はかかるようである。







































































































ボトボトボト。
それは落ちる音だった。
一つは足の上に直撃して痛そうだった。
だった、というのは、私ではなく男鹿の足の上に落ちたからだ。

「・・・なにコレ」

一つ持ち上げてみれば、どこか見覚えのあるもの。
そして見えた“メッセージ”に、何故か心が締め付けられた。

“男鹿君へ”

「・・・・・・・・・・・良かったな」

考える前に、そんな事を言ってしまった。

男鹿は所謂“バレンタインチョコ”を拾い上げ、凝視している。
綺麗にラッピングされたソレ。

「で、返事はどうするのだ?」

ああ、なぜこうも口が動いてしまうのか。
急速に心が冷えていくのを感じる。

「断るに決まってるだろ」

が、そんな一言は少しばかり、冷え切った心を温めた。

「ほら、早く帰るぞ」
「・・・あぁ」

男鹿は拾い上げた物をカバンにしまい込んだ。
捨てるのもどうかと思うが、そうやって男鹿の元へと届けられるのを見るのも辛い。
無意識にカバンを持つ手に力が入った。

「・・・ヒルダ?」
「あ、あぁ・・・今行く」

知らず立ち止まっていた私を不審がる男鹿に返事をして横に並んだ。
男と女。当たり前だが身長差がある。
見上げれなければならない。

「・・・どうした?」
「何でも、ない」

わけは無いが、今ここで言うのは憚られた。
しかしこの、靄がかかったような気分はなんだろうか。
こいつに聞いたら分かるだろうか。
・・・いや、分かるわけわけないか。


はぁ・・・・・・・

なぜこんな事を思うのか分からない。
いや、本当は分かっている。
しかしそれを言えば、こいつとの関係が変化するのは確実だと、確信を持って言える。
だけどまだ。

「ヒルダ」

この心地よい距離でいさせてほしい。







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