特別な品 2

□終わる気配はありません。
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「うーむ・・・」
「どうしたんすか?師匠」

定刻の鐘がなり、弟子であるアリババと王宮の廊下を歩いているときだった。
ちなみにアリババの服はくたびれている。
まあ、このくらいじゃ全然足りないけれど。
時間過ぎてまでやる必要は無い。
それに、アリババとの訓練中も、一つ心の奥で突っかかっていたことがあって集中できなかったというのもある。

「なあ、お前・・・」

そう言いかけて、押し黙った。
こいつは気付いてないようだ、だったら言わないほうがいいだろう。

「いや・・・今日は飲むのやめようぜ」
「え?」

師匠が珍しいですね・・・なんて言うアリババの頭を小突けば、観念したように声をあげた。

「じゃあな」
「あ、今日はありがとうございました!」
「ん」

律儀に礼をするアリババに軽く片手を挙げて踵を返した。
そして向かうは、心の奥でつっかかってた“原因”のところに行くのだった。












コンコン。
2回、ノックしてみた。しかし返事は無い。
でも構わずドアノブに手を伸ばせば、ドアノブに触れる前にそれは下に動いた。

「あれ、なんで・・・?」

でてきたのは同じ八人将で“自称”天才魔導士のヤムライハ、だった。
予想していなかったのだろう。首を傾げる姿は、なんともまあ・・・
かわい、かっ・・・・た。


「てめーのせいで全然集中できなかったじゃねえか!!」
「は!?なんの事よ!!」

といっても、素直に言えるほど俺はできてはいなかったが。
というか、いきなり来てこんな事言うってのも、ヤムライハじゃなくても怒るわな。
しかし、本当の事だ。

「お前、さっき見てただろ」

ギクリ。音をつけるならそんな音。
左口角をぴくつかせ、肩を震わせて。
その反応で、確信した。

「いや〜いくら俺がかっこいいからって、あ〜んな熱い視線を送ってこられちゃ、
こっちもいい迷惑だっつの」
「なっ・・・!!」

アリババとの訓練中、ふと感じた違和感は、まさしくこいつの視線だった。
こいつの魔法で姿は見えなかったが、気配はまさしくあった。

「そ、そんなわけないでしょ!!」
「まだそんな事言うのかこの口わ〜!!」

ムニーっと柔らかい頬を左右に引っ張れば、今度はヤムライハ頬をも引っ張りだした。
そこからはいつもの喧嘩の流れ。
手も出て口も出て、あまつさえ足さえ出る始末。
こいつ相手に油断も加減もできやしねぇ。

「やめなさい2人とも!!」

騒ぎをききつけた女官が伝えたのだろう、いつも出てくるのは八人将の一人。
俺たちを止められる人はそうはいないから限られてくる。
・・・大抵ジャーファルさんだけど。
というのも、他のやつらは「ほっとけ」の一言だからだ。
真面目なジャーファルさんは、いつも俺たちのストッパー役になってたりするのだ。

「「・・・」」

ああ、ジャーファルさん、目の下にクマができてるよ。
今日も王の事で心労が・・・
そんなジャーファルさんを見兼ねて俺たちは何も言わず手を離した。
これ以上騒ぎを大きくすれば、確実にジャーファルさんは切れる。
それはもう、ヤムライハとの喧嘩は目じゃないくらいに。
これはもう経験済みで、ちなみにヤムライハもそこらへん理解している。
大人しくしていれば、ジャーファルさんは一息つくのだ。

「分かればよろしい」

そう言って、足早と去って行った。
まだまだ仕事が残っているのだろう。
そんな気苦労がたえない背中を見送っていれば、ヤムライハがおずおずと口を開けた。

「・・・別に私は・・・」

・・・まだそんなことを言うのかよ・・・
けどま、

「その赤い顔をどーにかしてから言えよ」
「!!?」

ああ、なんて分かりやすい奴なんだよ。
顔を真っ赤にしたヤムライハの目と合った。
なんだかトマトみてえだなあ。
無性に笑えてきた。

「ま、今日の所はこれで終わりな」

いつまでも喧嘩してちゃ、またジャーファルさんがきて今度こそ雷が落ちるかもしれない。
それを知ってるのか、ヤムライハもしぶしぶといった様子で引き下がった。

「でも、絶対に濡れ衣なんだから」
「は?だから俺のかっこよさに―――」
「そんなわけないでしょー!!」

後ろに鬼を携えた執政官がくるまで、あと少し――――――














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