特別な品 2

□掴まえて、引き寄せて
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『掴まえて、引き寄せて』
「またえらく人が多いな・・・」

天気は快晴、穏やかな休日。
そんな日に、頭に緑髪の赤ん坊をのせて左手はごはん君のエコバックを持った男・・・

男鹿辰巳は、晴れ渡るような空気に似つかわしくない、大きなため息をついた。

「早く来い、良いのがとれなくなるぞ」

グイ、と手を引かれて姿勢を崩しそうになるもなんとか持ち直して、男鹿は金髪碧眼美女・・・
ヒルデガルダの後をついていった。

「あら、男鹿さんとこの。こんにちは」
「・・・?」

振り向けば、見知らぬおばさんが立っていた。

「あらあらかわいい赤ん坊。あなたたちの子供さんかしら?」
「「・・・・」」

沈黙。
実際は違うのだから否定すればいいのだから、男鹿はどうしても否定できないでいた。

(・・・なんとなく、嫌だ)

胸のモヤモヤの正体に気付くのは、また別の話である、が。


「おお、坊ちゃまの素晴らしさがわかるのか!」

何にもわかっちゃいないヒルダに、男鹿はため息をついた。
いや、そのおばさんは単に可愛いって言ってるだけだから。

「ちょっと抱っこさせてもらえる?」

上機嫌のヒルダは断るわけもなく、ベル坊がおばさんの腕の中へ。
見知らぬ人で最初は状況が分かってないような表情を浮かべるが、
軽く、そしてゆったりと揺れることにより、双眼はゆっくりと閉じるのだった。

「あらあら、眠かったのね」

さすが、というべきか。
いつもはおなかいっぱいの時か、疲れた時か眠たい時か・・・それくらいでしか素直に寝ない。
たいてい、グズる。
なのに、このおばさんはいとも簡単にベル坊を寝せたのだ。
すっかり穏やかな寝息を立てている。

「これからも頑張ってね」

若いのに偉いわね、と言いながら。おばさんはベル坊を手渡し、買い物へといくのだった。


「なぜ頑張れと言われたのだ?」
「・・・気にすんな」

多分説明しても分からないだろうから。
ヒルダは特に気にもとめていなかったが。

「よし、行くぞ」
「ん」

眠ってしまったベル坊を改めて頭にのせ、店の中にはいるのだった。








































買い物は、予想以上に早く終わりそうだった。
というのも、おふくろから渡されたメモ帳があったから。
いっぱいになった買い物袋を肩にかけて、帰るところだったのに。
しかし、なぜか時間がかかってしまった。

「あのー・・・赤ん坊、かわいいです、ね」

なぜか話しかけられるのだ・・・ヒルダが。
いやいやいや、その“赤ん坊”は俺の頭の上で寝てるからね!
どーしてヒルダのほうにいくんだろーねー。
こいつの鼻の下が伸びた面を殴りてぇ。

「そうだろう!?」

主君が褒められたと思って嬉しいのだろう。
まあ、こいつ、ベル坊バカだし。
しかもそこそこ話せば離れていくし。
へっ、ざまーみろ。

「次行くぞ」

ああ、なんて気持ちいい。
知らない“男A”は、恨めしそうにこっちをみている。

「すみません」
「む?」

せっかく男Aから離れたとおもいきや、また別の“男B”が話しかけてきた。

「赤ん坊、かわいいですね」

またこいつもか・・・
しかもさっきの男Aと同じく、視線はヒルダ。
いい加減気付けバカ。
しかしヒルダは、さっきと同じく。

「そうだろう!?」

・・・もう嫌だ。
しかも追加で「この男にも見習ってほしいものだ」なんて言ってやがる。
おい、“この男”って俺のことか!?

「・・・おい、行くぞ」
「まあ待て、こいつに坊ちゃまの素晴らしさをだな・・・」

だから、それは要らねぇっつーの。
しかし本当にベル坊で語りだしそうな勢いなので、白くほっそりした腕を掴んだ。
ヒルダの瞳は驚きと、あとは“何か”を宿していた。
その“何か”は、今の俺には分かりそうにもない。
あまり気にもならないが。
早く、ここから立ち去りたかった。

「おい、待て」
「・・・・・・」
「待てと言っておろう!」

後ろでヒルダが何言おうと、俺は止まる気は無かった。
さっきの男Bから離れられて、心なしか気持ちが軽くなったが。


「お、おい・・・」

何も言わない俺に違和感を感じたのだろう。
いつもの威勢はどこへやら、その声は少しばかり震えていた。

「・・・」

ここらへん、か。
きょろきょろとあたりを見渡した。
うん、誰もいない。


「・・・ヒルダ」
「やっと素直になったか」

掴まえて、引き寄せて、温もり。
簡単に収まった“それ”は、俺の気持ちなんてとっくに知ってやがった。

「あんなに殺気立ってたら、誰だって勘付くわ」

おお、そんなにわかりやすかったのかよ・・・
しかしヒルダが別の男たちに話しかけられるのは、どーしても我慢できなかった。
この俺がいるのに、だ。

「心配するな」
「・・・何だよ」
「貴様以外の男は興味ないからな」

坊ちゃまと大魔王様は別だが、なんて聞こえたが無視した。
しかしその言葉が嬉しくて、きつく、きつく抱きしめた。

「苦しいんだが・・・」

困った大きな子供に、ヒルダはため息をついた。
しかしそれはそのため息が幸せなものであると、ヒルダは知っていた。


あとがき
というわけでかき氷様、いかがだったでしょうか・・・?
甘い男鹿ヒルってなんだっけ・・・?とか思いながら書いてました←
だからなのか、急に甘い感じになったような・・・
書き直し可能ですので、いつでもいってくださいね!

ヒルダは確かに目立つ外見だし、もてると思います。
けどそこは男鹿に頑張ってほしいですよね。独占欲ばりばりな男鹿を書いてみたい。


というわけで、ここまでお読みくださりありがとうございました!
これからもよろしくおねがいします!!





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