小説2

□IR、HSK
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「というわけで、」

ごくり、と誰かが唾を飲み込んだ。

「カントクこと相田リコ、花嫁阻止計画を始動します!」
「「「おうっ!!」」」












「って意味分かんねえよ!!!」

誠凛男子バスケ部の一年、火神大我が声を荒げた。
と同時にあびる複数の視線、というか自分以外の視線にう゛、と気遅れするも、提案された案件に異を唱えなければ、と思った。
なんだよこいつらおかしすぎる。

「何がですか。カントクの貞操が奪われるんですよ?」

いやいやいや、何言ってんだ黒子!!

影の薄さなら高校生一といっても過言では無い相棒にツッコミを入れた。
天高くこぶしをふりあげ、このドヤ顔。
いやいやいや、キャラじゃねえし!
しかも周りも周りだ、何同意してんだ。

「知ってますか、火神君。カントクはもう結婚できる年齢なんですよ?」
「知ってるわそのくらい!!」

ああもう埒があかねぇ。

「確かに料理は壊滅的でギリギリBでかなりの男前ですが、」
「おいそれ、けなしてねぇか・・?」
「いつも一生懸命でちゃんと僕たちの事をすごく考えてくれて笑顔が超絶可愛くてすごく優しくて、とても、もう一度言います、とても魅力的な御人なんです!!!」
「・・・・・、お、おぅ・・・」

すごく、って2回言いやがった。とてもっていうのも2回言いやがった。
しかし黒子にこうも熱弁されるとは思わなかった。
ぐいっときた身体に俺も身体を反った。
その瞳は真剣そのもの。
まさしくサイクロンパスのような・・・

「だから相田リコ花嫁阻止K」
「って何でだよ!!」

あぶねーあぶねー。こいつのワケわからん熱意に押される所だった。
というかなんで先輩たちも、フリたちもこいつ止めないわけ!!?
口々に「そうだそうだ」「カントクは俺たちが守る」「日向死ね」なんて言っている。

・・・ん、日向?

「主将がどうかしたのかよ?」
「「「えっ」」」
「なんだよ、みんなして呆けて」

俺、何かおかしな事言ったか?

「・・・まさかここまでとは」
「…本当、君が僕の光で良かった」
「な、なんだよおい・・・てか、その目はなんだ黒子!!」

いつも以上に表情の読めない目にズビシと指をさしてしまった(人に指をさしてはいけません)。
というかどういう意味だコラ!!
襟元つかんで黒子を揺らせば、黒子は小さくギブアップです、と呟いた。
目を回しており、さすがにやりすぎたかと反省する。

「で、何で主将がどうしたんだよ??」
「火神君・・・本当に分からないんですか?」

何で知らないんだよ・・・
というかマジでかよこいつ・・・
信じられねえ、マジで・・・
やばいわ・・・・ハッ、いわしがやばいわしキタコレ
ワケわかんないよ伊月

様々な疑いの目とが何故かダジャレまで混じったが、こいつらはドン引きと言わんばかりに距離を取って。
いや、何が何だかわからないんだが。

はあ、ちょっと火神君・・・

盛大なため息をついて黒子が耳元で囁く。
その内容に、絶叫が体育館に響いた。

「・・・うるさいです」

いつもの無表情(に見えて実は不機嫌に見えるから、相当俺もこいつに慣れてきたな)で耳に手を当てていた。
いやいやいや、でもこれはまさか。

「マジ・・・かよ・・・・!!」
「いやいやいや、こっちからしたら、お前がマジかよ、だからな」
「そーそー、あーんな分かりやすいのに」

分かりやすい、のか・・・・?
と、普段の2人を思い浮かべる。

『あーっまさむねーー!!!』
『甘いわよ日向君!こっそり新しいの買ったの知ってるんだから!』

主将が新しく買ったという武将フィギュアを人質に、カントクが黒い笑みを浮かべている・・・
カントクの左手には、無残にも腰から折られた主将の武将フィギュア。
全然甘くないじゃんあの2人!
あれがどうして付き合ってるとかそういう話になるんだよワケわかんねえ日本人!!

「あれがあいつらにとって“普通”なんだよ、きっと」
「てか、日本人すべてが“ああ”じゃないからな、言っとくけど」
「まあ、火神君にも一応事の重大さが分かったということで、」

ごほん、と黒子が一つ咳払いした。

あ、そうだ!
こいつら、カントクの花嫁・・・・なんちゃらを計画してるんだった!

「だったら余計意味わかんねえよ!!」

もうカントクには、自身が花嫁になる理由があるのだから。
まあ、今付き合っててそのままゴールイン、となるかは分からないが。
それでも付き合っている相手がいるのなら、今更どうこう出来ないのではないか。

「いいですか、火神君」

そこからが長かった。
普段喋る事が少ないくせに、その時一生分じゃね!?と思えるくらいの饒舌っぷりを発揮したのだ。
内容は・・・まあ、カントクの事だけど。
そして話が終わる頃には、俺はキセキとのバスケの試合以上の疲労感に襲われるのだった。

「分かりましたか?火神君」
「お、おぅ・・・」


正直分からない所もたくさんあったが、そんなことを言えばまた饒舌モード黒子が発動しそうだったからやめておいた。
黒子といえば、スッキリしたように笑顔だ。
分かりにくいけど、笑顔だ、こいつ。

「では、これから僕たちは・・・」

そう言って黒子の動きが少し固まる。
ん?と思えば、すぐに黒子は席を立っていってしまった。
それに倣うかのように周りにいた先輩たちやフリたちも散っていってしまう。
そして部室に残されたのは俺一人となった。

「よう、火神、こんなところに突っ立ってどうした?」
「主将!?」
「どうしたんだよ、そんな驚いて」

なんか隠し事かー?と笑いながら自分のロッカーへと向かう主将に、内心ヒヤヒヤだった。
ついさっきまで主将の事話していたわけだし・・・・
でもまあ、別に黒子の、“いかにカントクが可愛いか”の話だし。
語ってたのは黒子だし、別に不都合な事は聞かれてないはず・・・

「で、火神よ」
「な、なんだ、ですか・・・?」

にっこり、そんな効果音がつきそうなくらいの笑顔な主将だった。
自然と左口角が上がる。というかヒクつく。

「お前はどっちの味方なんだ?」
「どっちの、味方・・・?」

いきなり何を言っているのだろうか。
どっち?どことどこの事を言っているのだろうか。
首を傾げても答えなんて出てこなかった。
主将はそんな俺の様子を見て、そして着替えていく。

「ま、俺は一人でも絶対諦めないけどな」
「???」

ますます意味がわからない。

「黒子たちに何言われたかは知らねーけど、」

主将の口から黒子の名が出て心臓が大きく動いた。背中にタラリと汗が流れた。

「俺は、リコの事諦めねーから」

ほら、早く準備して行こうぜ。

いつの間にか着替え終わった主将は、何事も無かったかのように部室を出ていった。


「うわぁ・・・」

すっげえかっこつけてる、かっこつけているが・・・
でも、かっこうよかった。

「主将!!」
「ん?」

「俺、応援してますから!!」













黒子たちなんかに負けるな、主将!!










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