小説2

□日常へと帰る非日常
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恥ずかしいから・・・ね?

そう言われて数週間。
最初は、ああこいつも可愛いとこあるじゃねーか、とも思った。
顔を真っ赤にして上目遣いの彼女は、勇ましい彼女ばかり見ていた俺にとって珍しくて、ある意味衝撃的だった。
ふと触れたい、と思った時は、その時のこいつの表情を思い浮かべれば自然と触れようとした手は彼女に触れる事なく下ろされるのだ。
それで良かった。

・・・・・と思っていたんだ。



「てかさ、いつになったらカントクと付き合うわけ?」

部活後の、マジバに寄った時の事だった。
超ハードな練習後の男子高校生は、家に帰るまで空腹が我慢できるわけがなく。
帰り道に、マジバに寄ってハンバーガーを頼むのはもはや日常茶飯事となっていた。
今日は伊月。
さっきまで普通の、バスケがどうだとか、テストがどうだとか、そういう話をしていたのに。
吸っていたコーラを吹き出しそうになった。

「おいおい、大丈夫か?」

さすがに吹き出さずにすんだが、我慢した分鼻にきた。
大丈夫か、と背中をさする伊月になんとか大丈夫と伝えれば、少し疑いの目をかけられながらも座りなおした。

「で、いつになったら・・・」
「それは、そのー・・・」

もうとっくに付き合ってます。
そう言えたらどんなに楽か。
というか言いたい。
あのカントクと、相田リコと付き合っているのは俺だって。

俺の彼女、相田リコはぶっちゃけて言うと、非常にモテる。
生徒会副会長、日本一に導いた男子バスケ部監督、容姿端麗で小ざっぱりした性格。
どれをとっても、魅力的な女性なのだ。
そんな彼女にアタックして散っていったのは星の数、とまではいかないが、相当な数の男たちが散っていった。
告白された、というのは本人からもきくし、周り・・・伊月や木吉など、バスケ部メンバーからもきいた。
さすがに黒子から聞いた時は驚いたが。
カントクは1年の中でも有名人らしい。あ、そうか、カントクは生徒会副会長もしてるからか。
もちろん付き合っているのは俺だから、返事はもちろんNOなのだが。
それでもこっちとしては良い気はしないが。
だがしかし、と思いとどまる。
ひとえにリコとの約束があるからだ。

ズズ、とコーラを吸って伊月をみれば、何か疑うような視線と合った。

「ふーん・・・?」

伊月の視線にいたたまれず、思わず視線を外してしまった。
ダラダラと背中に流れる汗。
い、いたたまれないっ・・・

「ま、いっか。それで日向がいいならさ」

何か含みを持った伊月の言葉に、なんとも言えない気持ちになった。
そうして伊月との腹ごしらえは、胃を満たすものがキリキリさせるという結果になってしまったのだった。



























「ふぁーーー・・・・」

ばふん、とベッドに倒れこんだ。
身体は休まるだろうが、心が休まる気配がない。

『それで日向がいいならさ』

その言葉がひっかかり、目を瞑っても眠れる気がしないのだ。

そりゃあ、なあ・・・

年頃の男として、好きな人を公言できないのはある意味つらい。
それはつまり、ギャラリーがいればあいつに触れないってことだから。
2人っきりでイチャイチャするのも好きだが、それ以外でもしてみたい。
そんな時間が少ないのは確かだ。
だがしかし、と思い留まる。
性格は押せ押せドンドン、なのに、男女となると途端に臆病になってしまう彼女。
そんな彼女が、人目を憚らずイチャイチャするなんて・・・やべ、全然想像できん。
あれ、想像できない程ってどんだけだよ。
人目が無ければそれなりにくっつくし、それなりに幸せだ。
なのに、俺とリコ“以外”の登場人物が一人でも出現すれば、突然と想像できなくなるのだ。

重症だな、俺も・・・

ゴロン、と横を向けば、丁度よく揺れるスマホ。
表示は“相田リコ”。
思わずビクッと肩を揺らすも、バイブは鳴りやまないからゆっくりと、通話ボタンを押した。

『こんばんは、順平君』
「おう、・・・リコ」

彼女との2人きりのとき、電話の時はお互いの名前で呼んでいる。
誠凛バスケ部に入るまでその呼び名で呼んでいたのに、未だに慣れるのはまだまだ遠い気がした。

『あのね、・・・』

そして紡がれるのは日常的なものからバスケの事まで。
ある意味友達同士の会話なんじゃ、とも思える会話をして。
学校以外でもリコの声を聞けるのは嬉しいけども。

『どしたの?』
「ん、おぉ・・・いや、大した事じゃないよ」
『そう?』

モヤモヤしているのがリコにも伝わったのだろう。
首を傾げているのが想像できて、思わず苦笑いを浮かべた。

『じゃあそろそろ寝るね』
「おう、おやすみ」
『おやすみー』

プツン、と切れたスマホ。
画面をみるも、リコの顔が見れるわけもなく。
言えなかったなあ・・・
大きくため息をついて、洗面所へと向かうのだった――――。






































「おはよう、日向君」
「おう、カントク」


そしていつもの日常へ。
















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