小説2

□とことん甘い俺たち
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「まあ、テキトーに座ってて」
「お邪魔しまーす」

そう言ってカントク・・・いや、今は彼女であるリコは、勝手知ったる彼氏の部屋へと上がり込み、勝手にベッドにゴロンとなった。
ばふん、と振動で跳ねるリコ。揺れる髪。
チラリと見えた肌色に、ごくりと唾を飲み込んだ。

「順平っ」
「おっ、おう・・・」

いきなり振り向いてびっくりした。
しかも満面の笑みで、今までの邪な考えが一気に吹っ飛んだ、というかごめんなさい変な妄想してました!

「・・・久しぶりだね、こういうの」

……本当困った女だと思う。
付き合っている男のベッドの上で微笑む女。
一人暮らしのため、誰にも邪魔される事は無い。
というか、彼氏彼女の関係なのだから邪魔されても困るのだが。
こちとら色々我慢して高校生活を送っていたのだ。
付き合うようになって時々は発散させてもらっているけど、正直足りない。
それなのに、頬を軽く染めてお気に入りのクッションに顔を埋めて上目づかいとか。
そういえば彼女がこの部屋にくるようになって、彼女お気に入りのアイテムが増えた気がする。
このクッションもそうだった。
これは確かリコが家から持ってきたものだった。
そういうものが普通に俺の部屋にあるのも、どうにもむず痒くってくすぐったい。
一人暮らしなのに、リコといる、なんて感覚さえあって。
せっかく意識しないようにしていたのに、この女はそんな思惑なんてぶったぎってこっちの斜め上の返答をしてくるのだ。
今だってクッションを奪って、彼女の胸へとダイブしてスミからスミへと味わいたい。
だけどここは平静を装って返事をした。
・・・が、予想以上に声が上ずってしまった。

「・・・ぷっ、変な声」
「仕方ねーだろ、緊張してんだから」

付き合うようになって、こういう所が素直に言えるようになったと思う。
リコの顔を見れば、嬉しそうに、けれど頬を染めていて。

「言っとくけど、今日は無性に甘えたい気分なの」
「ふーん」
「私が、ね。で、順平は手出し禁止」
「なんつープレイだよ」

そう苦笑いしつつも、許す気になれた。
リコはクッションを置いて、来て、なんて両手を広げているもんだから。
ゆっくりと、彼女の負担にならないように抱きしめれば、彼女の手が背中に触れたのが分かった。
そしてすりすりと、彼女の甘い匂いが漂う。
時折首元に触れる唇に、なけなしの理性は崩れ落ちそうになる。
しかしなんとか踏みとどまる。
勢いに任せて、甘い雰囲気をぶち壊したくない。
いつもの恥ずかしがっている姿も、それはそれでそそられるけど。
まるで猫のように甘えてくるリコも、ものすごく可愛いのだ。

「ねえねえ、ちょっと横になろうよ」

え、と返事を聞く前に、リコは勢いよく体を押し倒してきたのだ。もちろん俺を巻き込んで。
気づけば、数センチ先にはリコの顔。
視界の端には見慣れたベージュの天井。
押し倒された、と思った時には、既に呼吸は奪われていた。
背中に回していた手を頭にもっていって固定すれば、次第にリコの表情が歪む。
そろそろかな・・・と力を緩めれば、若干涙目の彼女と目があった。

「私が甘えるの、順平はダメよ」
「いや、マジで拷問だから」

ぷくりと頬を膨らませたり、拗ねたように視線を外したり。
そういうのが俺の理性をなくならせているのだが、そういう姿も可愛いからこいつを甘やかしてしまう。
今日もやっぱり可愛くて、さっきは外れかけた理性をさっと治す。
体重を俺の胸に預けるリコ。
今度はリコの髪を梳いてみた。
短いけれど、サラサラの柔らかい髪。
男と女で、こうも違うのか。
髪の毛に唇を寄せれば、くすぐったそうにリコは身じろいだ。
やっぱり可愛いな、と思いつつ、こいつが甘えてきたところから思っていた疑問をぶつけた。

「で、何があった?」
「・・・」

沈黙は肯定、だった。

彼女の顔を覗き込めば、少し困ったように緩く笑みを浮かべていた。
そしてポツリと、告白されたの、と言った。

「あ、もちろん断ったよ」
「ったりめーだ」

そうじゃなきゃ困る、ああ、めちゃくちゃ。

「でもね、最近忙しかったから」

・・・これにはすぐには言葉が続かなかった。

最近授業数も多くなって、でもバイトとかもあって。
しかも季節の変わり目で体調を崩す奴も多くて、そいつの代理とかして。
ただでさえリコとは違う大学ですれ違いが多いのに、貴重な“彼女との過ごす時間”までつぶれる事もあった。
彼女は大丈夫、なんて言っていたけど、声色だけでも我慢していることは分かった。
我慢強い彼女のことは、俺が一番知っている。

「寂しかったんだから」
「・・・わりぃ」

ぎゅ、と抱きしめれば、彼女も抱きしめ返した。

「それにね、告白してくれたの、順平みたいに優しくて妙にマジメでヘタレで眼鏡でバスケ好きで」
「おい、それは褒めてんのけなしてんの」
「危うく靡く所だったんだから」
「ごめんなさい本当きっついですからそれ俺選んでくれてありがとうございます」

だから今日はいっぱい愛してね。

そう微笑むリコに、俺は愛しく思うのだった。


















で、ちなみに俺が勝った要因は?
バスケ“馬鹿”か、バスケ“好き”の違いかしら
・・・マジかよ・・・
なわけないじゃない









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